Googleと日本の自動車メーカーに共通する弱点
いずれにしても、広告やマーケティングの領域で、AIが活用されていく。その時代の流れに対応するには、顧客理解が重要になる。顧客理解とは人間理解である。人間理解を深めて、趣味嗜好や行動履歴データなどを管理していくには、CRM・CDPの整備が必要だ。そして、ここに、Googleの弱点がある。なぜなら、Googleは、1st partyの人間的関係性を苦手としているからだ。あくまでも、端末IDやCookieIDを管理してきたに過ぎない。
もう10年以上前の話だが、Google米国本社のイベントに出張で招かれて参加したことがある。そのとき、Google本社スタッフが話していた。「Googleは自社の検索エンジンを実際に誰が使っているか把握していないのです。たとえば、Gmailアカウントは、メールアドレスを設定してパスワードを入力すれば、誰でもいくつでも取得することができます」と誇らしげに話していた。彼が言いたいことは、誰でも簡単に何個でもGmailアカウントを持つことができるし、かつ、無料である、ということだ。そして、そのユーザーの名前を必ずしも登録する必要はないし、本人確認などはしていないということだった。
日本の自動車メーカーの課題、「自社のクルマに実際に誰が乗っているのか、じつは、本社では把握してないんです」と大差ないのだ。Googleのサービスの多くは無料で提供されているからこそ、本人確認をしたりクレジットカード情報を登録したりする必要がない。つまり、ユーザーを明確に把握したり本人確認をしてユニークな個人を特定するのは苦手である。Gmailアカウントを複数持っているユーザーも多い。同一のユーザーが複数のアカウントを持って、かつ、複数のPCやスマホを使っている時、それらをすべて名寄せしてユニークな個人を特定するのは、ユーザーの自発的協力がなければ不可能に近い。その代わりに、主に3rd party cookie/dataに依存して個人データを収集し広告配信に活用してきた。
2018年の「Latitude59」で聞いた話を改めて書く。「Googleの弱点は、3rd party cookie/data依存のビジネスモデルだ。もちろん、Googleも1st party cookie/dataを持っている。だが、AmazonやMicrosoft、Appleと比較すると、Googleの1st party cookie/dataは脆弱で質が悪い。Googleのアドネットワークは膨大な量の3rd party cookie/dataを活用している。そこに狙いを定めて、GDPRは施行されたのだ」。
「AmazonやMicrosoft、Appleと比較すると、Googleの1st party cookie/dataは脆弱で質が悪い」とは、どういうことか? つまり、それは、あなたはGoogleの検索エンジンを使うために、クレジットカード情報を入力したりはしないということだ。Amazonの場合、ECサイトなので多くの人がクレジットカード情報を登録し、配送先の郵便番号、住所、電話番号、そして、多くの人が本名を登録しているハズだ。Microsoftの場合、PowerPointやExcelなどのMicrosoft 365有料版SaaSモデルを契約しているユーザーがほとんどだろう。そのため、クレジットカード情報を登録しているし、元々はCD-ROMでソフトを届けていたため、歴史的に配送先の郵便番号、住所、電話番号、そして、多くの人が本名を登録している。これは、Appleの場合も同様である。
一方で、Googleはどうなのか? もちろん、いまではGoogleも有料サービスを持っていて、とくにAndroid端末についてはかなりの1st party dataを保有している。だが、AppleのiPhoneと異なるのは、Samsungなどのスマホ端末メーカーが間に入っているケースが多いため、すべてのユーザーとの直接的な関係をGoogleは必ずしも持てていない(もちろん、自社端末Androidもあるものの、Samsungなどスマホ端末メーカー依存は揺らがない)。ミュージックサービスなど有料で、クレジットカード情報を収集したりしているが、そのボリュームは、無料の検索エンジンやGmailのユーザー数に比べると圧倒的に見劣りする。
有料サービスの弱さについては、Facebookも同様であって、GDPRは十分に研究してGoogleやFacebookの弱点を狙っている。欧州の当局がどこまで意識しているかは分からないが、ヨーロッパ人の話を聞いている限り、GAFAやBig Techと言われる企業群に欧州企業がひとつもないことも、彼らが狙い撃ちする理由になっているようだ。