無数の選択肢から、顧客に選んでもらうには
今回紹介する書籍は『UAV あなたが知らない あなたの会社だけの強み ― 顧客に選ばれ続ける「最強ブランド」のつくり方』(日経BP)。著者の彌野泰弘氏はP&GやDeNAを経てBloom&Co.を設立し、100社以上のマーケティングの戦略策定・実行や組織強化の支援を行っています。
昨今、日々の生活に情報があふれ、選択肢が無数に存在する中で選ばれる商品・ブランド作りに多くの企業が注力しています。しかし、マーケティングに取り組んでいるものの「顧客理解に基づいたブランド構築ができていない」「認知はされているが売り上げにつながらない」「長期的なブランド成長が実現できない」といった課題に直面するマーケターは少なくありません。
正しくマーケティング施策を実行し、数あるブランドや商品の中から顧客に自社を選んでもらう、選び続けてもらうにはどうすればよいのでしょうか。
「買わない理由をなくせば、買ってもらえる」は間違い
本書では「マーケティングの誤解」からの脱却をテーマに掲げ、事業成長を妨げる要因となっている「よくある誤解」を分析。たとえば「『顧客理解』の間違い」として、顧客へのアンケートやインタビューで買わない理由を調べて解消したのに、買ってもらえないという悩みを紹介しました。
その落とし穴として、著者は「買わない理由をなくせば、買ってもらえる」は大きな誤解だと指摘しました。買わない理由ではなく、買う理由・買い続けたくなる理由を作ることが重要であり、顧客理解においては自社商品を買っていない人より既存顧客に目を向けることで自社ブランドの価値の開発につなげられるといいます。
また、別の誤解として挙げられたのは「意味のない『差別化』」です。選ばれ続けるためには、競合より優れた商品やサービスを作るべきだと考える企業は少なくありません。しかし著者は、着目すべきは他社との差ではなく顧客であるとし、自社の強みに立脚した顧客目線での価値作りの重要性を示しました。
加えて著者は、「『自社の強み』の押し売り」の危険性についても提示。マニアックな最新技術や見えない部分でのこだわりといった企業目線での特徴・独自性は、必ずしも顧客目線の魅力につながるとはいえません。そのため、自社の方針やこだわりと、顧客が買う理由となる価値や強みは別物として考えることが大切なのです。
ユニクロの「選ばれ続ける価値」はどのように作られたのか
このようなマーケティングの誤解を解消し、売り上げに結び付ける本質的なマーケティング実現のカギとして、著者は「UAV(ユニーク・アトラクティブ・バリュー)」のフレームワークを提唱。UAVについて、以下のように説明しました。
「他社に模倣されにくい自社の強み」と「顧客インサイト」の掛け合わせから見いだされた構造的な優位性が、「顧客に選ばれ続ける価値(UAV)」となる
このUAVを作るために必要な条件は「自社の強みに立脚しているか」「顧客のインサイトに応えているか」の2つ。これらを組み合わせることで、顧客が「買いたい」と価値を見出す要素につなげられるといいます。
自社の強みに立脚しながら顧客に独自の価値を提供している事例として、著者は「ユニクロ」をUAVの視点で解説。以下の顧客インサイトを踏まえて、ユニクロならではの取り組みを活かした強力なUAVを構築していると述べました。
- 顧客インサイト:品質や機能性が高い服は高価格で買えない、低価格の服は品質や機能性で劣るので着たくない
- 企業としての強み:製造小売業としてのビジネスモデルによるサプライチェーンの強さ、素材メーカーとのパートナーシップ、グローバル規模の展開によるコスト低減
- UAV:機能性と品質の高いカジュアルウェアが手ごろな価格で買える
本書では、UAVを開発する3つのステップと効果最大化のポイント、UAVマーケティング実現のための組織作りや人材育成方法についても紹介。顧客に選ばれ続けるブランドを作る秘訣が詰まった一冊となっています。自社の強みと顧客インサイトの両方を踏まえた価値開発を実現したいマーケターは、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。