「1→10」:最初の顧客と同じ価値を見出す人を探し、拡大する
MZ:0→1の段階で、このプロダクトや事業は伸びそうだ、というのはつかめますか?
西口:実際のところ、この時点で先々どのくらいの市場規模になるかは予想しにくいです。予想できるということは、参考になる事例や先例があるからで、独自性が弱い懸念があります。逆説的ですが、強い独自性があるから予想できないといえます。
ただし、一つ条件を挙げるなら、0→1の段階で熱狂的な顧客を見つけられなかったら、成長は期待できないと思います。仮に予想以上に売れても、絶対にほしい、今後も買い続けたいと支持する人がつかめなければ「この後、具体的に誰が買うのか」の問いに答えられないですよね。つまり、WHOがしっかり見えていない。
「多分まだ売れそう」という希望的観測で利益拡大のための投資はできないので、具体的に買っている人とその熱量を確かめる必要があります。
MZ:では、次の「1→10」は、どういう段階でしょうか?
西口:1→10の段階には、2つ要点があります。一つは、0→1で見つかった顧客と同様な顧客の数を拡大すること。もう一つは、最初の顧客とは異なる、次なる「WHOとWHATの組み合わせ」を見つけ、伸ばしていくことです。
1つ目で重要なのは、最初の顧客と同じ便益と独自性に価値を感じる人が、どこにいるのかを捉えることです。たとえば、AM10:30まで販売するマクドナルドの「朝マック」をよく利用するのは、ほとんどが通勤や通学途中の人でしょう。それなら、最寄り駅などにマクドナルドがない地域に広告を出しても意味がなく、通勤・通学圏に店舗がある人に向けた訴求が有効です。
最初の顧客と同じ価値を感じる人にアプローチするには、最初の顧客の価値が成立するのに、生活圏や行動様式、価値観など、何が具体的に関係しているのかを理解することが不可欠です。

「1→10」:最初の顧客とは異なる「WHOとWHATの組み合わせ」を見出す
MZ:では2つ目の「次なる『WHOとWHATの組み合わせ』を見つける」とは、どういうことでしょうか?
西口:連載第12回で、プロダクトには複数のWHOがいる、と解説しました。売り上げが伸び、軌道に乗ったプロダクトや事業は、ほぼ必ず複数種類の顧客に支持されています。
0→1では1種類でしたが、1→10では他にどんなWHOとWHATの組み合わせが成立しそうか、第2第3のWHOとWHATの組み合わせを見つけます。そこに、新たな成長の機会があります。

MZ:プロダクトが、最初の顧客以外で誰に受け入れられそうかを考えていくのですね。
西口:はい。0→1での価値関係にとらわれて、顧客を合計や平均でしか捉えられていないと、多様性が見えません。すると成長機会を見逃してしまうので、要注意です。
MZ:どうしたら、第2、第3の顧客を見つけられるのでしょうか?
西口:これも、根底にあるのは「最初の顧客をよく理解すること」です。具体的に何を評価しているのかをつかめたら、それが他にどんな場で、どんな人に求められそうかを考えていきます。
ソニーが開発したテープレコーダーが好例です。元々は、米国でテープレコーダーが売れ出していたことから日本での開発に着手したものの、大きくて高価でもあり、当初はまったく売れなかった。最高裁判所など官庁にまず導入される傍ら、開発者らは全国の学校で視聴覚教育が普及しつつあることに着眼し、その重要性と録音機の使い方についてたくさんの学校で講演して回ったそうです。同時に機器の小型化にも注力したことで、学校の先生に受け入れられ、全国に広がりました。