「1→10」で最も重要なのは、「価値の再評価」
MZ:最初に評価された便益と独自性が、他にも役立つシーンはないかを考えていくのですね。そうして、1→10の段階では複数の「WHOとWHATの組み合わせ」を強化していく、と。
西口:はい。加えて1→10で大事なのは、価値を再評価していただくことです。初回購入の意思決定をした時点で顧客は価値を評価していますが、使ったり食べたり体験したりして改めて「満足か」「また買いたいか」をジャッジします。これを「価値の再評価」と呼んでおり、2回目の購入につながるかどうかを左右する重要なポイントなのです。
世に生まれるプロダクトのほとんどは、1→10の段階では売り上げから得られる利益を費用が上回る赤字状態です。同時に、0→1で成り立ったWHOとWHATの価値関係から多くの潜在的な顧客を洞察し、客数を増やすことで売り上げを拡大し、費用を上回るレベルまで利益性を確立していく時期でもあります。
MZ:だからこそ、ここでリピーターになってもらえないと厳しいわけですね。
西口:その通りです。1→10の段階は顧客数の増加に一喜一憂しがちですが、数だけを見ず、一人ひとりが次も買っているか、使っているかに注目したいところです。
たとえば「Netflix」のような動画サービスなら、観られるコンテンツを契約時に確認しますが、「自分の好みに合うか」が実感できるのは利用し始めてからです。観たいものがたくさんあると判断されれば、継続されます。つまり利用初期の時点で、どれだけ好みに合うコンテンツが豊富かを的確に伝えることが大事になります。
2回目から3回目、3回目から4回目の継続は、初回から1回目に比べるとはるかに容易なので、最初の「価値の再評価」を超えて2回目につながるかどうかが肝心です。とはいえ、価値の再評価は何回目まででも永遠に続きますし、競合や代替品にも左右されるものです。どの事業ステージでも、便益と独自性を高め続ける努力は不可欠です。
「10→∞」:確度の高い「WHOとWHATの組み合わせ」への投資を最大化
MZ:最後に、「10→∞」の段階について教えてください。
西口:10→∞は、規模を最大化する時期です。この段階に至るまでに、価値が成立するいくつかの「WHOとWHATの組み合わせ」が見出せて、顧客数が増えている状態になっています。ここから、単価と頻度の向上も含めてどうすればさらに拡大するか、また別のWHOとWHATはないかを模索して、投資を最大化していきます。
具体的な方向性は、いくつもあります。顧客数をもっと拡大するなら、たとえば現在の顧客と同じニーズはあるのに販路の問題で買えない人に対して、販路や営業を拡大すること。小売店経由だったら、ECへの展開。逆にECから小売りへの展開もあるでしょう。海外への販路拡大も一案です。

西口:単価や頻度の拡大なら、プロダクトの改良、付帯サービスの実装、上位プロダクトや関連プロダクトの開発・提案などが考えられます。拡大する過程で、「こんな人がこんなふうに使ってくれるんだ」といった企業側が想定しない顧客が出てくることもあります。その兆しをしっかりキャッチして、意識的に強化していくのも大事です。
MZ:この段階になると、いろいろな打ち手がありそうです。
西口:その通りです。何をするか、つまり手段や手法であるHOWの選択肢は無数にあります。だからこそ、WHOとWHATが曖昧なまま投資をすると無駄遣いも大きくなってしまいます。
顧客がどんな方で、価値を見出す便益と独自性が何かという「WHOとWHATの組み合わせ」を具体的に理解しておくことで、適切かつ効果的なHOWの選択ができます。そうして利益を確保・継続し、プロダクトの改良や開発に再投資して、より多くの価値を提案していくのです。
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