対談テーマ「優れた自動車ブランドをどう作るか?」
田中:本日は、「優れた自動車ブランドをどう作るか」というテーマで鼎談を行いたいと思います。このために、非常に強力な2人のゲストをお招きしました。お1人は元電通で、昔私の同僚だった山崎明さんです。現在は、自動車ジャーナリズム協会で自動車ジャーナリストとして活躍されていらっしゃいます。
昔から自動車全般に詳しいだけでなく、常に自動車業界の動きに目配りをされています。最近は書籍『なぜ クルマ好きは性能ではなく物語(ブランド)を買うのか 自動車メーカー32ブランドの戦略』(2024年、三栄)も発刊されました。
それから、もう1人のゲストが高田敦史さんです。トヨタ自動車で宣伝部やレクサスブランドマネジメント部長を歴任され、現在はコンサルタントとしてご活躍されています。高田さんは、自動車はもちろんマーケティングとコミュニケーションの専門家です。サラリーマンの生き方について書かれた『45歳の壁 55歳の谷 自分らしく「勝つ!」サラリーマンのための6つのシナリオ』(2023年、高陵社書店)などの著書も出版されています。
まず、今日のメインテーマについて背景をお話しさせて下さい。皆さんご承知の通り、自動車業界は、いま大きな変動の最中にあります。恐らく、20世紀に自動車というものが出現して以来の変動なのではないでしょうか。EVひとつとっても、本当にそれが環境のためになるのか、消費者や社会のためになるのか、など色々な議論があります。こういう時期だからこそ、優れた車ブランドとはどのようなものなのか、をテーマにしてお話ししたいと思ったのです。
最初に、車ブランドの基本概念について触れておきましょう。20年程前の昔の話ですが、私が車業界に出入りしている頃は、自動車業界では「ブランド」という用語を使っていなかったように思います。
高田:たしかに、あまり使わなかったです。ブランドというより、モノで勝負するという感じが強かったです。社内でも僕がブランドという言葉を使うと、「そんなふわふわした言葉を使っていると、出世に差し支えるぞ」と上司から言われていましたから(笑)。
山崎:ブランドという概念がない業界でしたからね。私が思うに、自動車業界でブランドという概念が注目されるようになってきたのは、業界で買収合戦が起きた頃です。