これまでのBtoBマーケティングフレームワークを覆す「Goodbye MQLs」
──もう1つ、庭山さんが大きな変化として挙げているのが「Goodbye MQLs」です。このGoodbye MQLsとは何か、これによりどのような変化が生まれているのか教えてください。
世界のBtoBマーケティングを理論的に牽引してきた企業があります。それが2001年に設立されたシリウスディシジョンズ(Sirius Decisions)です。2019年にフォレスターに買収され、現在はフォレスターディシジョンズ(Forrester Decisions)となりました。
そんなシリウスディシジョンズ社が2002年に提唱したマーケティングモデル「デマンドウォーターフォールモデル」があります。世界のBtoBマーケティングのスタンダードモデルと言われるフレームワークで、MQL(Marketing Qualified Lead)やSQL(Sales Qualified Lead)、SAL(Sales Accepted Lead)などの言葉もこの中で定義されました。世界中のBtoBマーケターはこのモデルでマーケティングを学び、「マーケターの仕事とは、良いMQLを営業や販売代理店にトスすることだ」という基本姿勢を20年間にわたって貫いてきました。
そのモデルを提唱した当事者たちが、2023年に突然「Goodbye MQLs,Hello Opportunities」と言い出したんです。私もその会場にいたのですが、会場全体が驚愕に包まれました。
──その意図するところは何でしょう?
フォレスターにはデマンドウォーターフォールモデルの研究を続けているチームがあるのですが、そのチーフを務めるテリー・フラハティと私は旧知の間柄です。この件について、テリー本人から詳しく話を聞きました。
Goodbye MQLsについて順を追って説明すると、これまでMQLは“個人”がターゲットでした。「こういう部署のこういう役職に就いている人」をターゲットに、ナーチャリングでスコアを上げて電話をかけてアポを取り、それをMQLとして営業に渡すやり方です。このMQLを営業がアクセプトしてSALになり、パイプラインに入っていきます。
ただ大企業だとこのラインとは違うところから量産発注されるケースがあるんです。これまでマーケが対象外としていた部署・役職の人から発注を受けるケースですね。マーケティングの手が入っていないので、当然マーケティングの成果にはなりません。
そこでテリーのチームでは、個人ではなく「バイインググループ(Buying Group)」にフォーカスを広げてみました。バイインググループとは、購買・決裁に関わるチームのことで、わかりやすい日本語で言えば「稟議」です。ここを対象にしたところ、デマンドセンターの売上貢献度が驚異的に伸びたそうです。
そこで「個人ではなく、バイインググループにフォーカスしてマーケティングを展開しなければならない」という結論になりました。これまでのMQLはMAの個人スコアリングで絞り込まれたものですが、それだけではなく、ターゲットの個人以外の人の行動もシグナルとして見ていこうとなったんです。そのため今は「シグナルベースドマーケティング(Signal Based Marketing)」という新しい概念がトレンドとなりつつあります。この変化は日本企業にとって非常にインパクトになると思います。
