概念実証(PoC)と同様にシミュレーションする
広告主の立場から、概念実証(PoC)を行うのと同様にシミュレーションをしてみました。
広告主Aは、20~30代の若者層をターゲットとした「男女兼用化粧水」の新商品キャンペーンを関東エリアで実施します。
テレビCMの予算は3,000万円で1週間、1局のみ使用します。これまでの複数局使用はやめてインプレッション取引できる局のみに集約し、残りの予算はCTV広告へシフトします。TCPMはMF1=1,500円、MF2=1,000円に設定して、付加条件をMF1へのインプレッション数を1,000万回目標、CM露出は同日/同時間帯は最大2本までとしています。実績%コスト(コの字)は175,000円です。CTV広告もMF1ターゲティングでテレビCMと同額の3,000万円実施します(すでに局から見ての競合は裏局ではなくCTV広告などになってきています)。
この条件下でのシミュレーション結果は、図表3のようになりました。

MF1のターゲット比率は前述の全日平均の約2倍(+10.4p)、コの字平均の1.5倍(+7.2p)に上昇し21.0%となりました。平均CPMも454円から585円に約3割アップしましたが、そのコスト上昇分を、効率改善分が十分に上回っています。
最終的なテレビCM費用は約2,800万円となりましたが、新商品の売れ行きを見ながら追加のテレビCMを行う場合はこの半分、あるいは4分の1の予算規模でも同様の実施が可能です。インプレッション取引ではスポット発注量の大小はターゲット効率とは無関係です。
またMF1単価は約2,800円となりましたので、同時期にMF1ターゲティングで実施した複数のCTV広告の平均CPM4,000円よりも大幅に安価となりました(△1,200円)。加えてテレビCMではMF2にも約1,300万回のインプレッション数があり、MF1-2合計で約2,300万回、ターゲット比率は48.0%、MF1-2単価は1,200円となりました。CTV広告のMF1インプレッション数は計750万回でした。
上記シミュレーションは本連載にあわせて設計した「簡易シミュレータ」で行いましたが、それを使ってスポットCM全体(1週間分)でキャンペーン別のコスト上昇率と効率改善率をGRP取引(個人全体)の場合と比較しましたので参考までにご紹介します(図表4)。
各キャンペーンNoには同じTCPM設定の複数の広告主があると仮定し、キャンペーン毎の上限を300本(No.1~8)、No.9~10のGRP取引分とコアターゲット分(※2)で割り当てが約6割程度(GRPベース)残るように試算しています(曜日/時間帯別の本数上限は個別)。
(※2)インプレッション取引が導入されてもGRP取引のままを望む既存広告主が多い可能性、またコアターゲットでインプレッション取引したい広告主もいるかも知れないと想定し多めに割り当て
No.9(GRP取引のまま)を除きコスト上昇率よりも効率改善率が上回っています。ただし、この比較はあくまでも既存広告主向けに行ったため、TCPMを若干抑えめとしたキャンペーンもあります。局収入の増額という面では、新規広告主からはもっと高いTCPM設定を得られる可能性は十分にあります。
インプレッション取引は新しい取引基準なので既得権益は継続されませんが、今後は適量を効率的にバイイングする方が既存広告主もメリットが大きくなるはずです。

インプレッション取引は「アクチャル請求」が最適
インプレッション取引で重要となるのは、できるだけ正確なターゲット毎のインプレッション数の測定です。現在の取引通貨となる前4週平均視聴率は、いつの時点のものであれ全て過去のものです。
テレビCMに限らず、世の取引において買う側は支払った金額分のモノを受け取れるのが当然の権利です。お肉屋さんで「ハラミ200グラム(g300円)」と注文して、「210グラムになったけどいいですか?」と聞かれてOKすれば、それを受け取り630円払うのが理屈に合っています。600円を払ったのに180グラムしかお肉が入ってなかったら、納得はいかないはずです。
したがって、テレビCMもアクチャル請求してもらうことが広告主としては正しい主張だと考えます。インプレッション取引はアクチャルの積み上げ請求が基本となるべきでしょう。積み上げ式であれば、昨日よりも今日、今日よりも明日、どんどん最終目標に近づきながら局側も日々修正していけます。
「アクチャルを割りすぎない、でも100%を超えない」ための作案作業に事前に多大な労力と時間を費やすよりも、お互い格段に効率的となるでしょう。
だだし広告主側がアクチャル請求を望む場合、自社のテレビCMがその後のCMや番組本編の視聴に与える影響を容認することとトレードオフされなくてはいけません。そこも正にアクチャルによる「クオリティ指数(仮称)」などによって、その後のインプレッション取引の単価などの掛け率へ反映させていくような仕組みは新たに必要となるでしょう。