被害額は年間約450億 ネット広告の歪んだ構造に危機感
有園:2024年6月に策定された「国民を詐欺から守るための総合対策(PDF)」について、『DIGIDAY[日本版]』の小林議員のインタビュー記事を読み、素晴らしいと思いました。今回の対談では、健全で透明性の高いインターネット空間をどのように作っていくのか、話し合いたいと思います。まず、現在のインターネット広告を取り巻く状況をどう捉えていますか。
小林:特に問題意識を持っているのは、詐欺広告です。統計によると、被害額は年間450億円ほどに上ります。国民が被害を受けているという現実に対して、非常に危機感を持っています。
インターネット広告は民間企業の取引ですので、本来であれば、政府が介入するものではありません。しかし、不健全な構造になっていることが明らかであるため、対策をまとめることになりました。
有園:対策をしようと思ったきっかけは何ですか。
小林:詐欺被害が顕在化しているプラットフォーム企業の担当者から、話を聞く機会がありました。そこで、「テクノロジーによって一生懸命審査しているが、どうしても漏れてしまう。自分たちだけでは対応できない問題だ」と説明されました。正直なところ、事業者として対応する意思が薄いんだな、と感じました。それが大きなきっかけです。
政府が働きかけ、インターネット広告の構造を健全に
有園:これはすべてのプラットフォーマーが向き合うべき問題です。ただ、インターネットの詐欺広告やフェイクニュース、オルタナティブファクトなどの問題は、民間の仕組みだけでは解決が難しい側面もあります。
小林:今回の対策の基本的な考え方は「犯罪者を逃がさない」「被害に遭わせない」「被害を広げない」です。犯罪者を逃がさないことについては、警察や金融庁が現状のルール違反を十分取り締まれていないため、執行力を強化することになります。しかし、大事なのは、犯罪者を逃がさないための制度はあっても、被害に遭わせない、広げないための取り組みが十分でなかったことです。
つまり、情報を流通させているプラットフォーマーやSNS事業者に責任を問う仕組みが不足していたのです。B2Bの取引については、経済産業省が情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)に基づいて、透明性のある取引をするように取り締まっています(参照)。
しかし、B2C、つまりプラットフォームやSNSを通じて情報を受け取る個人に対する責任については、規定がありませんでした。新しいルールを設けることは、表現や経済の自由を阻害する可能性があるため、慎重にならないといけませんが、今回は介入が必要だと判断しました。
インターネット広告に対しては、海賊版サイト「漫画村」が問題になったときから問題意識がありました。海賊版サイトも広告収入を得て運営しています。インターネット広告の構造的な問題を解決するための施策が必要だと考えています。