誰のデータを使って稼いでいるのか
小林:クオリティの高い情報を増やすためには、クリエイティブなことに取り組む人たちに適切に利益配分できる仕組みも作らないといけません。そのためには、トレーサビリティが必要です。誰がどのように作ったのかが分かれば、価値が明確になり、本物であることも証明できます。テクノロジーで起きている問題をテクノロジーでカバーするという方法です。
有園:それは私も良いと思います。データ配当金の話をしましたが、「誰のデータを使って稼いでいるのか」を明確にする点では、トレーサビリティと考え方は同じです。違反コンテンツに罰則を科すためにも、トレーサビリティは重要ですね。
小林:鍵はトレーサビリティですね。資本主義は、資本の投入と個人の労働によって成り立ってきましたが、現代社会では資本の投入への対価が大きくなってしまいました。政府が目指している「新しい資本主義」では、個人に着目しています。努力した人や価値を生み出した人に対価を払える社会を理想としているのです。
一方、政府が“正しい情報”を判断する世界に近づくのは良くありません。インターネット空間は自由であった方がいい。ただ、自由とは、他者の権利を侵害したり傷つけたりしない範囲で規定されるものです。それぞれの個人が他者を慮って、相手の権利を侵害しないかを考えながら、自由の空間を守っていければいいですね。そのための罰則は必要ですし、事業者が仕組みを整備するのは一つの方法だと思います。
日本でデータポータビリティの取り組みは進むのか
有園:まとめると、放送局や新聞社など、コンテンツを提供する事業者がインターネット空間でも収益を得られる仕組みを作ること、そして、データポータビリティを制度化して、データの権利を個人に返すことが必要なのだと思います。個人の意思で、企業や研究機関がデータを使えるようにした方がいい。個人のデータは個人のものだからです。
小林:私もそういう思いで改革に取り組んできました。全てのステークホルダーがインターネット空間に貢献する力を持っているし、重要な役割を担っています。みんなそれを忘れていて、自分の影響力を過小評価していると思います。
テレビ局や新聞社には、クオリティの高い正確な情報をインターネットに出してほしい。「民主主義を守る」と主張しているあなたたちこそ出てきてほしいのです。有園さんは、彼らが稼げる場を提供して情報を引き出すことが必要だと言ってくださいました。そこは賛同します。
企業に限らず、個人も同じです。自分がデータを提供することで、インターネット空間でサービスが提供されていることを理解すべきです。その対価を得たり、データの返却を求めたりする権利もあるのです。全てのステークホルダーに対して「目覚めてほしい」と思っています。
有園:海外では、データポータビリティを活用した取り組みも出てきています。日本でもそういった動きが増えればいいですね。本日はありがとうございました。