「ゼロイチ」の段階で生成AIをどう活用できるのか?
ジェリー:継続的な活用のユースケースは、対外的には未発表のものが多く、詳細をお伝えできないのですが。広告企画のブレストの段階で、アイデア出しやその検証にStable Diffusionを使ったり、2~3種類の広告クリエイティブを100パターン、200パターンに拡張したりといった用途で普段の業務の中で活用いただいています。
藤平:高速検証を目的とした大量生成というユースケースは、テキストにせよ、画像にせよ、たしかにイメージしやすく、かつ現場でも実践が進んでいる領域だと思います。今日、ジェリーさんとディスカッションしてみたかったのは、その“手前”の部分。つまり、アイデアやコンセプトなど0から1を生み出す、いわゆる“ゼロイチ”の段階で、生成AIをどう活用できるのか? ということです。
AIは問いを投げたら、それを「指示」だと受け取って、確かな/確からしいことを速く答え返してくれますよね。それはそれでとても便利ですし、有効に使うべきだと思うのですが、ゼロイチのフェーズでは「想定内の確かな答え」より「思いもつかなかった答え」が欲しいわけです。
博報堂では「別解」という言い方をすることもあります。要は、AIと対話しながら、一緒に“ゼロイチ”を生み出したいなと妄想しているのですが、そういう柔らかい段階でも、AIはよき相棒になってくれるのでしょうか?

ジェリー:それは、どのAIを使っているかにもよりますし、プロンプトをどう書くかにもよりますね。たとえば、「違和感を覚えるようなキャッチコピーを生成して下さい」「意味不明な擬態語、形容詞、名詞を連ねて下さい」など、プロンプトの書き方次第で、アウトプットに新奇性を持たせることは可能だったりします。THE GUILDの深津貴之さんは、そういったAIの使い方がとてもお上手ですよね。
藤平:深津さんは本当にすごいです。ただ、「プロンプト・テクニック」で、AIをハックしてこの悩みを解決したいというわけでもなく。仕組みとして、あるいは役割として、AIと真の意味で対話できるといいな、というのがクリエイティブディレクターとしての願いであり、妄想です。もちろん、「全員が深津さんみたいになれるわけではない」とも思っています(笑)。
ジェリー:それは、そうですね(笑)。
藤平:特に画像は、「まだ見ぬアイデア」に出会える可能性が高いアウトプットだと思っています。なので、ゼロイチを生み出す対話に特化した画像生成AIモデルができるといいなと思っていました。
ジェリー:Stable Diffusionの基盤モデルは、汎用性が非常に高いので、創造的な活用も大いに可能です。たとえば、画像ではありませんが漫才のセリフなども書けてしまうと思いますよ。
また、創造性の定義にもよりますが、藤平さんの悩みは数学的に解決できるかもしれません。数年前に発表された『Creative Adversarial Networks』という論文があります。この論文には「既存のカテゴリーには分類されないようなものを生成させる」というプロジェクトに取り組んだ結果がまとめられているのですが、結論、そのようなことも可能なんです。エンジニアがAIモデル(計算式)を設計する時に、「既存のどのカテゴリーからも遠いものを生成させる」ように組むわけですね。
藤平:なるほど! 創造性という不確かであろうものに「数学的に」向き合う、というのは、切り口としてハッとしました。
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