購入意向が継続するのは、便益や独自性を実感しているから
MZ:南アフリカのロゴはそれぞれ好みや印象の強さは違っても、そもそも何のブランドか知らないので、具体的なイメージが湧かないですね。
西口:皆さんそうでしょう。でも、南アフリカではよく認知されている電話会社や銀行、飲料メーカーや燃料会社などのロゴなので、同地域の方々はこれらを見たら何らか感じることがあるはずです。
たとえば、コカ・コーラのロゴを見るとどうでしょうか。私は自然と「スカッとさわやか」という言葉や、シュワッとした炭酸のイメージが浮かびます。それは、私の過去のプロダクトの使用体験から抱いているイメージですよね。もちろん、ブランドとの出会いがロゴで、広告などでロゴを覚えたから商品を買ってみたとか、お店に入ってみて気に入ったという可能性もあるでしょう。
ですがいくら好感を持つロゴに出会っても、その先にプロダクトの便益と独自性を知ることがなければ、購入意向や継続の意向は湧きません。ロゴを機に便益と独自性を体験して価値を感じるか、あるいは自分自身が価値を感じる便益と独自性を先にしてロゴを知るかのどちらかがなければ、ロゴは「ブランディング」として機能しないのです。
これは、ロゴをネーミングやパッケージデザインやCMのジングル音などに置き換えても同じです。自分自身にとって価値のある便益と独自性を見出さない限り、どんなに秀逸なロゴやネーミングやデザインであっても、投資対効果は期待できないと思います。
ブランディングも、WHOとWHATありき
MZ:投資対効果というのは、なんとなく「いいな」と思っても、15回の記事で事業成長に重要とお話しいただいた継続購入(リピート)にはつながらない、ということですか?
西口:そうですね。広告などで、単に“洗練された”感じ、あるいは“先端的な”雰囲気に仕立て上げても、見た人が「自分にとって価値がある便益と独自性」を感じられなければ、そもそも初回購入に結びつきません。そして、初回購入し実際に使用した上で、価値ある便益と独自性を感じなければ、継続的な購入や利用に結びつかないのです。好感を獲得するだけでは、当然ですがビジネスは成長しません。
ブランディング、あるいはブランド作りはマーケティングの手段であって、目的ではありません。繰り返しになりますが、提供側がWHOとWHATを明確につかめていて、顧客が価値を見出す可能性のある便益と独自性をプロダクトが有していることが前提です。
よく、ブランディング施策が魔法のように効いてヒットにつながった……という事例が紹介されますが、WHOとWHATがあいまいなのにブランディングで売り上げを伸ばそうとするのは、ギャンブル的な投資といえます。これは、ブランディングを考える時点で必ず思い出していただきたいことです。
MZ:好感や憧れを持ってもらうだけでは、ブランディングとはいえないんですね。
西口:そう考えています。買いたいとは思わないけれど、なんとなくそのブランド名を覚えて好感を持つことになれば、将来の選択肢に入るかもしれないですね。ただ、このような「好感度は持つが買わない顧客」は、事業の優先順位は高くはないでしょう。「好きだけど買わない顧客」よりも、「買ってくださる顧客」を増やすことこそが優先されるべきではないかと思います。
