ミッションが行き詰まる3つの理由
繰り返すが、Googleのミッションが時代遅れであり、行き詰まることになると感じた理由。それは、(1)データの権利を棚上げ、(2)世界中の情報を整理することは不可能、(3)D&Iに反する、の3つだ。
(1)データの権利を棚上げ
「データの権利を棚上げ」については、前回の記事「Googleの弱点が露呈した「3rd Party Cookie廃止方針の撤回」」でも書いたが、すべての情報やデータには、原理的に、権利者が存在する。Google創業の1998年時点では、おそらく、オープンウェブの情報を対象にしていたため、基本的には、情報・データの権利を理由に訴訟を起こされる懸念はなかった。だが、個人の顔やDNAなどの情報・データとなると話が別である。
(2)世界中の情報を整理することは不可能
「世界中の情報を整理することは不可能」だと、私が最初に思ったのは、Googleの「ブック検索」(現在は「Google Books」と改称)で、出版社や著作権者とトラブルになったときだ。
「グーグルは2010年の段階で、英語ばかりか日本語、ドイツ語、フランス語まで含む多種多様な言語の書籍を1,000万冊以上、デジタルスキャンしていた。<中略>あろうことかグーグルは、著者や出版社の許可を一切得ないまま、勝手に本のデジタルスキャンを繰り返し、その一部をネット上に無断で公開していたのだった」(引用元:「Google、日本の国益を侵害…書籍全文を勝手に検索して「ネット公開」、著作権侵害容認する法改正」)。
念のため、Googleの為に記載しておく。この件は、現時点では、Googleも対応し、次のように記載されている。
「書籍の著作権が失効しているか、出版社がGoogleに許可を与えている場合は、書籍のプレビューを見られます。また、書籍によっては全文を読むことができます。公共利用できる書籍であれば、PDFファイルの無料ダウンロードが可能です」
(出典:「Google ブックスについて」)
さて、Googleのミッションで「世界中の情報」というからには、それを達成するには、仮に無断であったとしても、著作権侵害だったとしても、世界中の書籍のデジタルスキャンを断行しなければならない。そして、それを「世界中の人がアクセスできて使えるようにする」ためには、当然、ネット上に公開する必要がある。これを無断で断行していたGoogleは、なんて無邪気な人たちだ。私は、当時、そう思った。と同時に、このGoogleという集団は、既存の法体系をまったく気にしないのだとも感じた。ミッション遂行のためなら、著作権法など気にしている場合ではない、という感じに、私にはみえたのだ。
Googleには、欧米のトップスクールを卒業した学歴エリートがたくさんいる。違法性は理解していたはずなので、確信犯的な行為なのだ。しかし、当たり前のことだが、すべての世界中の書籍をデジタルスキャンして、無断で公開することなど、できるはずもない。シリコンバレーにはリバタリアンやアナーキストが多いという。既存秩序に対して挑戦することに快感を覚えたり、とにかく自由になんでもやってみたり、そもそも無政府主義がベターだと主張してみたり、悪気はないのだが、無邪気でヤンチャなのだ。だが、残念ながら「世界中の情報を整理することは不可能」で、実現できないミッションなのだ。
また、補足すると、FacebookなどSNS内部の情報や有料サービス内部の情報など、IDとパスワードでログインしないとアクセスできない情報も、Googleのミッションにとっては厄介だ。なぜなら、クローラーで情報を収集できない。「世界中の情報」を整理したくても「そもそも無理」という不完全性が、Googleのミッションにはある。
(3)D&Iに反する
「D&Iに反する」とは、どういうことか? この「D&I」は、Diversity and Inclusion(多様性と包摂性)だ。アメリカ連邦地裁がGoogleの反トラスト法違反を認める判決を出したわけだが、日経の記事「Googleに事業分割案 米当局、40年ぶりの「解体」視野」によれば、「検索に関するデータを競合他社に提供するように促すことも求める。米アップルに対価を支払ってiPhoneにグーグル検索を標準搭載する契約の破棄や、人工知能(AI)製品で不当に優位に立つことを未然に防ぐ措置も要求する」とのことだ。もちろん、要求が通るかどうかわからない。だが、「解体」されるよりは、この程度の要求は飲んだほうが得だと思う。