再生の方向性
ところで、GigaZineの記事(参照)で、今回の裁判についての「MEMORANDUM OPINION」(裁判所の意見書)を紹介していた。286ページの法的英文なので読み込むには時間がかかるが、この資料の49ページには、次のように書いてある。
「In 2017, Google analyzed its latency relative to Bing and determined that, for certain popular queries on Google, 25% of the time, the SERP took more than three seconds to load. UPX2026 at 122. Bing was “dramatically faster[.]” Id. at 123. Its first result arrived sooner 98% of the time. 」
(意訳:2017年に、Googleは、Bingとの比較でレイテンシーの分析をした。特定の人気のある検索クエリに関して、そのとき25%の確率で、検索結果ページ(SERP)のローディングに3秒以上の時間を要した。Googleは、Bingのほうが”劇的に速かった”と結論付けた。Bingの最初の検索結果ページは98%の確率でGoogleより速い速度で読み込まれた。)
この裁判所の文書で、「98%の確率で」Microsoft Bingのほうが速かったということだ。正直いって、私も驚いた。文書によると、その後、Googleは改善に取り組んだらしい。だが、Google自身が実施した調査で、Microsoft Bingのほうが優れていたと認めていた事実を、裁判所が書いているのだ。なぜ、Appleにお金を渡す必要があるのか? その背景が透ける。
残念ながら、この文書をみていると、「Googleは、テクノロジーで勝負したのではなくて、お金でユーザーを買ったのだ。お金で市場シェアを維持しようとしたのだ」と言われても仕方ないなと感じてしまう。
これは、日本でもそうだ。LINEヤフーの検索サービスは、Googleから技術提供を受けている。つまり、お金の流れや金額の多寡、そして、取引実態の解釈次第では、「Googleは多額のお金を支払って、Appleのケースと同じように、LINEヤフーのユーザーを買っているのではないか?」と言われても、仕方ないかもしれない。日本でも独占禁止法的なメスが入る可能性も、今後あるかもしれない。
私自身もそうだったのだが、Googleを長年使っていて、使い慣れてしまうと、Google以外の検索エンジンを使うと不便に感じる。UIとUXが異なることもあって、使いにくいと感じるのだ。仮にMicrosoft Bingのほうが優れていたとしても、使い慣れたGoogleのほうが便利だと思ってしまう。偏見や先入観、固定観念といってもいい。これは、iPhoneからAndroidに乗り換えたり、WindowsからMacに乗り換えたりしたときにもそうだ。たとえば、同じパワーポイントのアプリであっても、ちょっとした操作感覚が異なるので、使いにくいと感じるのだ。
この「MEMORANDUM OPINION」には、Appleの調査結果も開示されている。Google検索とMicrosoft Bingを比較調査した結果、ケースによっては、Microsoft Bingのほうがよかったと明記されている。だが、総合的にみれば、Google検索のほうがベターという内容にもみえる。が、PCにおいてはMicrosoft Bingの性能が優れている、あるいは、劣っていないケースが多いという趣旨の意見書になっているようだ。そして、モバイルにおいては、Appleにお金を支払ってまで、iPhoneユーザーを取り込んできた。自発的にGoogle検索を使っているユーザーがいることは当然、否定はしないが、一方で、市場を支配するために独占禁止法に違反する行為もしてきたと認定している。概ね、そのような内容のようだ。Googleが敗訴したのだから、当然、Googleにとっては厳しい内容だ。
Googleは、神ではないし、神になれるわけでもない。「世界中の情報」、あるいは、「全宇宙の情報」を知り得るとしたら、それは神だけだ。ましてや、世界を支配することもできないし、市場を支配すべきでもない。もっと謙虚になるべきだ。この「MEMORANDUM OPINION」の行間には、そのような説諭が見て取れる。
「解体」されるよりマシだ。謙虚に素直に、出直すときだ。シリコンバレーの文化と革新性、ベンチャーマインド、そして、GoogleのDNAさえあれば、その精神と肉体は、必ず再生可能なのだから。