「夢中」から深層心理を深掘る3つのリサーチ手法
「夢中」という人を動かす強力な原動力を、従来のリサーチ手法で研究するのは困難なため、観測所では偶然・即興・体験を活用した独自のアプローチを開発し、リサーチに応用している。

1.街へ出よう
メンバーは街に出て、通行人やその場にいる生活者に直接インタビューを行う。この手法では、予期しない出会いや偶然の発見が重要視されている。街の中にいる人を観察し、今どのような状態でそこにいるのかを考え、現場でのインタビューを通じて、生活者がどのような場面で「夢中」になるのかを観察し、その背景にある価値観を掘り下げる。
2.「夢中大喜利」
毎月の定例会で行われる即興的なアクティビティ。参加者に自分の「夢中」について語ってもらい、その深層心理を10分で掘り下げていく。ゲーム感覚で行うこの手法により、直感力や即興力を鍛えながら、生活者の深層心理に迫ることができる。
3.何度も会う
1度のインタビューで終わらせることなく、同じ生活者に何度もインタビューを行う。この継続的なアプローチにより、時間の経過とともに「夢中」がどのように変化していくのかを追跡し、生活者の価値観や行動の変化をより深く理解できる。
これらの手法は、机上のデータではなく、フィールドでの直接的な対話を通じて生活者の「夢中」にアプローチする点が特徴である。発見された「夢中」ポイントについて、月に1度の定例会で多様な職種のメンバーが意見を交わし、さらに深く掘り下げていく。
「参加メンバーの職種、年齢が多様なこともあり、様々な視点でフラットに意見を交わせています。会議で毎回新しい発見や次のインタビューのヒントが見つかるところが、このチームの強みだと感じています」と北原氏は語る。
インタビューで大切なのは純粋な好奇心と評価しない姿勢
くらしの夢中観測所で行われるインタビューは、年間で120回を超える。インタビューでは、家族や友人、あるいは長年気になっていた人に「好きなこと」や「生活のこだわり」「ついやってしまう行動」について質問するが、最も重要なのは生活者の実際の行動を知ることだという。
インタビューの際には、意思決定がどのように行われたのかを過去の経験や周囲の行動とともに丁寧に確認しながら、本音に迫ることが目指されている。

※クリックすると拡大します
そこでインタビュアーが持つべきなのは、「生活者に対する純粋な好奇心」だ。相手を本当に知りたいという気持ちを持ち、その思いを相手に伝えることがポイントとなる。この純粋な好奇心が伝わることで、生活者は自然に自分の「夢中」について語り、対話が深まる。また、仮説や自分の論理を持ち込まず、評価しない姿勢を保つことも欠かせないという。
さらに、深層心理を探るため、インタビューの際の重要な手がかりとなる3つのポイントを設定している。まず時間やお金の使い方、持ち物などから、(1)「その人がどのように暮らしているか」を把握し、(2)「その人の感情はどのように動くか」を確認。そして物の購入や人生の岐路、好きなものについて話を聞き、(3)「その人がどう生きたいか、どう在りたいか」を推測する。

※クリックすると拡大します
「この『どう生きたいか、どう在りたいか』が夢中の源となり、そこからインサイトを導き出す取り組みをしています」と北原氏は語る。生活者が自覚していない部分もインタビュアーが想像しながら検証し、そこから得られたヒントを基にインサイトを抽出していくという。