「5つの戦略」を最初から綺麗に描けたわけではない
MarkeZine:ここまで伺ってきた5つの戦略は、どのような過程を経て、策定することができたのでしょうか?
戸松:最初から「5つの戦略」として、このような形に整っていたわけではありません。企業組織には、強力な既存事業があり、様々な利害関係者や社内政治が存在するのが普通です。ゼロベースで戦略を描き、それを実行に移していく機会に恵まれることはめったにないでしょう。私たちも例外ではなく、初手として社内の分散した機能を1つの部門にまとめ、再編成するのに約3年を要しました。
各段階でマーケティングビジョンを拡張しつつ、それに近づくために現時点で何ができるかを考えながら進んできた。その結果として、先ほど紹介した5つの戦略に整理することができたのです。
MarkeZine:戦略の実行にあわせて、組織体制や社内の仕組みも変えていったのでしょうか。NTTコミュニケーションズの組織規模だと、そのハードルも高そうです。
戸松:組織の変革はもちろん困難ですが、避けては通れません。企業が目指す方向性にあわせて、組織を変えていくことは必要不可欠でしょう。今時点では問題が表面化していなくても、組織が大きくなり、外部環境が変化するにつれ、時間の経過とともに、組織は劣化していきます。適切なタイミングで組織を再構築し、制度疲労を防ぐことが重要だと考えます。
MarkeZine:BtoBマーケティングの課題は、「営業担当者が情報を入力・共有してくれない」など、組織を構成するメンバー一人ひとりのマインドや行動に結局は終始するケースが多い印象です。この大きなハードル、深い溝をどのように乗り超えてきたのでしょうか?
戸松:前提として、ほとんどのメンバーは自身が所属する組織の悪化を望んでいません。そのような中で軋轢が生じる原因の1つとして挙げられるのが、個人の思想(想い・感情)と組織の方針の不一致です。
私たちNTTコミュニケーションズは、全社員が顧客に良いサービスを提供しようという思いを共有しています。この企業文化を否定する社員はおらず、むしろ誇りに思っている人が大半です。そのため、全ての仕組みをこの共通の目標、すなわち「顧客価値/経験(CX)の最大化」に向けてどのように動かしていくかを考えることが重要でした。