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“病院より楽”は謳わない。累計127万DL、ピル処方の常識を変えた「スマルナ」のマーケティング戦略

“病院より楽”は謳わない。

MZ:少ないパイを奪い合うのではなく、まずはマーケットの拡大を進めていかれたのですね。

石井:当社はコンセプトとして、「インターネットの力を使って患者さんと医療機関との懸け橋になる」という思想があります。喩えるなら、本屋に行く習慣がない人にも、本を読む文化を広げるためにAmazonを使ってもらおうという考え方です。

 そのため、すでに病院に通っている人たち向けに、その診察をオンラインに置き換えるような事業は一切行っていないんです。スマルナのマーケティングコミュニケーションでも、「病院に行かなくていい」「病院に行くより楽になる」という言葉は絶対に使いません

 むしろ、ピルの相談や処方とは無縁だった人にオンライン診察・処方という選択肢があることを伝える。そうすることでピルの社会実装が進みます。ピルを服用する人を何倍にも増やすことは、お医者さんにはできないエネルギーのいる仕事。その領域こそ、プラットフォーマーの我々が担うべきだと考えているのです。

 さらに言えば、マーケットが拡大して、僕らが抱える患者さんが増えた時、その患者さんたちもオンラインだけでは解決できない部分が出てくるはず。その時に、患者さんたちは自分で受診行動をとることができるでしょう。逆に通院中の患者さんの中で、お医者さんがオンラインだけでよいと判断すれば移行してもらって、お医者さんの業務効率を上げることもできる。

 このように考えれば、今病院を受診していない層にアプローチすることは、医療業界全体にとってのメリットが大きいやり方なのです。

普及の障壁となった「ピル」への偏見

MZ:ピルに対する世間の認識については、誤解や偏見も多く、社会問題ともなっていました。

石井:そうですね。日本はピルの社会実装に失敗してきた歴史があります。それは、「治療」と「避妊」の分断の課題があるからです。

 ピルは生理痛の改善・治療目的で使われる場合と、避妊目的で使われる場合がありますが、本来どちらも同じ薬です。ロキソニンも、頭痛を改善するために服用することもあれば、肘の痛みを抑えるために飲むこともありますよね。

 ところが日本の医療制度では「治療には保険が適用されるが、予防には保険が使えない」という鉄の規定があるんです。インフルエンザにかかってタミフルを処方されたら保険が効きますが、予防接種は自費でしか受けられないですよね。

 そこで、同じピルなのにもかかわらず「生理痛の治療のための薬」として別の名称を用意することで、医療保険が適用されるように定められました。ここで「治療用ピル」と「避妊用ピル」にカテゴリが分かれたわけです。

 これに加えて、日本特有の「女性はつつましくあるべき」といった価値観が重なったことで、「生理痛の改善のためにピルを飲むのはいいことだが、避妊のために飲むのはふしだら」という偏見が巻き起こってしまった。

ユーザーのペインに徹底的に寄り添う

MZ:そうした課題がある中、スマルナはどのようにユーザーとコミュニケーションを取ってきたのでしょうか?

石井:生物学上の女性が経験したことがある悩みに寄り添うことを徹底しています。これはサービス立ち上げ時からのこだわりで、マーケティングのメンバーが入れ替わる度に、必ず僕自身がプレゼンしています。

 ここで言う女性の悩みには、2つの段階があります。一つ目のペインは、生理周期の管理アプリが示す予定日を過ぎても、生理が来ない不安。二つ目はこれをパートナーに伝えた時に「そのうち来るんじゃない?」とあしらわれ、解決につながらない時のつらさです。

 これは、6年前のサービス立ち上げ時にたくさんの方々にヒアリングをして明らかになりました。

 これを踏まえて、スマルナでは無料の相談室を提供しています。他のオンライン診療サービスでは薬の処方・配達で終わってしまいがちですが、スマルナは医師や助産師、薬剤師に不安なことを聞ける場を設けているんです。

MZ:ユーザーのペインに耳を傾け、そこに寄り添うことを大事にされているんですね。

石井:はい。マーケチームに対しては、「スマルナは白物家電と同じくらい世の中から必要とされるプロダクトである」という話をよくします。あって当然のものが普及していない状態なので、ちゃんとユーザーさんとコミュニケーションがとれれば買ってもらえるはずなんです。実際、ヒアリングをした40代の方からも「若いころにスマルナがあったら欲しかった」という声を多く聞きました。

 また、スタートアップの事業が軌道に乗るのは、お客様の課題解決ができたときです。よくたとえ話で「お客様はドリルが欲しいのではなく穴を開けたいのだ」と言いますが、ドリルで穴を開けて、そこにネジを入れ、掛けたいものが掛けられてはじめて「課題解決」になるでしょう。

 我々の事業領域では、物理的な課題は医薬品が解決してくれますが、ユーザーは医薬品を服用するまでのプロセスや、その後にも悩みを抱えています。ユーザーが効果を実感して悩みを解決できるところまでサービスの一環としてやろうという信念は、サービスの早期からインストールしています。

 決してピルを届けたら終わりではありません。日本におけるピルの社会実装や、子どもを産む・産まないを選択できる権利が保障されることも、スマルナという事業の目的です。

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この記事の著者

岡田 果子(オカダ カコ)

IT系編集者、ライター。趣味・実用書の編集を経てWebメディアへ。その後キャリアインタビューなどのライティング業務を開始。執筆可能ジャンルは、開発手法・組織、プロダクト作り、教育ICT、その他ビジネス。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/10/07 09:30 https://markezine.jp/article/detail/46958

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