受注への貢献を測ることはキャリアの面でも◎
渡辺:続いて三つ目のツッコミを紹介します。
Hack:この状況のツッコミどころは、主に2点あると考えています。まずは「リード2倍」というゴール設定に対する疑問です。たとえば前年のリードが20件だった場合、2倍になっても40件にしか過ぎません。「そもそもそれってすごいの?」というツッコミどころが1点。もう1点は「2倍になったリードが、部門を超えて自社の売上にどう貢献しているの?」というツッコミどころです。
マーケティング部門の目標がどう設定されているのか、個人的に気になってXでアンケートを実施したことがあります。その結果を見ると「MQLの獲得まで」をマーケターのカバー範囲とするケースはマイナーになりつつあるんです。「MQLからパイプラインをどれくらい構築できるか」「パイプラインから受注金額をどれくらい創出できるか」が部門のゴールとして設定されています。
私個人の意見ですが、今皆さんがいらっしゃる環境でどのようなゴール設定がされていたとしても「受注まで貢献しているかどうか」を見ておいたほうが、キャリア上良いと考えています。
営業部門では「クローズできそうなパイプラインを四半期でどれくらい積み上げたか」が評価のポイントとなります。そのため、マーケティング部門では「2クオーター先にパイプラインがこれくらい構築できていなければ営業が大変だから」という逆算のアプローチが必要です。
加えて、パイプラインが構築できなかった/クローズしなかったリードを分析し、うまくいかなかった理由を認識することも大切です。その知見をターゲットセグメントの精緻化やマーケティングメッセージの洗練に活かせます。
BtoBマーケティング=セールスマーケティング?
渡辺:高広さんはマーケティング部門の目標設定について、どのようなお考えですか?
高広:日本における「BtoBマーケティング」の意味するところは、ほとんどが営業の案件創出に貢献するための「セールスマーケティング」になっている気がしていて。ただ、BtoBに限らずマーケティングの定義の中に「売上創出」は含まれていません。マーケティングは基本的に「価値創造」や「価値共創」の営みと定義されていて、売上はそれらの結果として、プロダクトやサービスと引き換えに得るお金の総体なわけです。
自社の製品に価値があると理解してもらうためには、ブランド認知の向上も必要だと思うんです。ところが今の日本のBtoBマーケティングには「知ってもらう」「適切に理解してもらう」「意味を見出してもらう」ための活動が欠けているというか、それについて議論している人が少ない気がします。今の日本でBtoBマーケティングと言われている活動は、ほとんどマーケティングという言葉を使う必要がなくて「営業でいいじゃん」と思うわけです。
昔から日本のマーケティング業界にありがちな「海外出羽守」は、BtoBのマーケティングの世界でもあります。業界の中でも「日本のBtoBマーケティングは遅れている」「日本のBtoB企業にマーケティング機能はなかった」という言説を耳にしますが、実はあれは適切ではありません。日本の製造業では、多くの企業が営業部門の中に「営業企画」や「営業推進」などのチームを置いていて、このチームのメンバーは営業資料の作成など、リード獲得のための活動を担っていました。つまり、セールスマーケティングの機能は日本のBtoB企業にずっとあったわけです。これについては、学術的な研究も出ているくらいです。
ただ、日本のBtoB企業には機能的に存在していなかったマーケティングもあります。先ほど触れたブランド認知向上やプロダクトの価値向上のための活動は貧弱でした。このあたりは国外に比べると、確かに遅れているというか、あまり注意を払ってこなかったと言えます。
なのでBtoBマーケティングにおけるKGI/KPI問題に照らすと、セールスマーケティングに資する指標だけでなく、プロダクトマーケティングや技術マーケティングなども通じて、自社のブランドやプロダクトの認知・理解に関する指標や、Cレベル/マネージャーレベルの人たちに対するセミナーの回数などもKGI/KPIとして必要なんじゃないかなと私は思います。実際Googleには、業界別にそうした対象に対してマーケティングを行う「vertical marketing」すなわち業界別マーケティングチームというのがあって、そういう活動を行っていました。