「独立変数」と「従属変数」を区別する
変数の中でも、マーケティングで直接的に動かせる変数を「独立変数」、独立変数を通して間接的に動く変数を「従属変数」と呼ぶ。従属変数は独立変数を通して間接的に変化する。先に出てきた「離反」は従属変数にあたる。
芹澤氏によると、従属変数を直接動かせると勘違いしているケースが散見されるとのこと。典型的なのがリピートやロイヤルティだ。現在のマーケティング業界では、「ロイヤルティを高めたいのなら、既存顧客向けの施策を頑張ればいい」という考え方が“常識”のようになっている。しかし、実際の市場では「顧客数が増えれば平均購入頻度も上がっていく、浸透率が増えるとロイヤルティも高まる」というダブルジョパディの法則が働くため、「浸透率を上げなければ根本的な解決にはならない」という見方のほうが現実に即している。
つまり、浸透率が独立変数で、ロイヤルティは浸透率を通して変化するという従属変数ということだ。
「浸透率が増えれば自然とロイヤルティも高まりますが、両者は連動するため、浸透率を増やさずにロイヤルティだけを高めるのは難しいわけです」(芹澤氏)
これについては、にわかに信じられない方も多いかもしれない。以下の記事でより詳細に解説しているので、あわせて読んでみてほしい。
▼ダブルジョパディの法則について、より詳細に知りたい方は以下の記事をご覧ください
では、マーケティングの役割は?
ここまでマーケティングで動かせる「変数」と動かせない「定数」に関する解説を追ってきたが、芹澤氏は「厳密に言うと、マーケティングで直接動かせるのは、メンタルアベイラビリティ(思い付きやすさ)とフィジカルアベイラビリティ(見つけやすさ、買いやすさ)の2つです」と説明する。
いくら良い商品や認知率の高いブランドでも、需要が発生した時に思いつかなければ買われない。また思いついたとしても、手近になければ、あるいは購入状況や利用文脈に合っていなければ、やはり買われない。逆に言えば、売れる商品とは、普段の生活の中で思いつきやすく、見つけやすく、買いやすいものだ。だからこそ、トライアルの絶対数が増え、その結果としてリピートも高くなっていく。
そうだとすれば、マーケティングの役割は「需要発生時に見つけてもらいトライアルを促すきっかけを作ること」であり、リピート視点では「次に需要が発生したタイミングでブランドを思い出させること」となる。
「つまり、需要が発生するシーンやタイミングこそコミュニケーションの起点であり、予算を使って働きかけるべき介入点なのです。オケージョン(利用文脈)から逆算して、文脈価値になるような商品属性や広告の訴求軸を作ることが大切です」(芹澤氏)
さらに、芹澤氏は『戦略ごっこ』で「事業の成長段階によってマーケティングアプローチを使い分けることが重要」と繰り返している。概論のみとなってしまうが、ゼロイチフェーズやローンチ直後は、行動ロイヤルティの高い属性あるいは文脈にフォーカスする。しかし、それだけで成長するのは難しいため、どこかのタイミングで、浸透率メインの成長戦略にシフトしなければならないといった具合だ。
▼マーケティングアプローチの「使い分け」について、より詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください
講演で解説された内容の多くが、MarkeZineの連載「エビデンスベーストマーケティングの基礎」でより詳しく解説されている。さらに本連載では、今後も最新の実証研究の結果を速報的に配信予定。本記事で新たな気づきがあった方は、ぜひ連載記事を読み込んでみてほしい。