顧客の「離反」は変数か、定数か
前提知識として、どんなブランドも浸透率に応じて顧客を失う。これをリテンションダブルジョパディという。従って新規を獲得できなければ、どんなブランドも徐々に衰退していく。また、同程度の規模の競合同士の場合、離反率はほぼ同じになるので、結局は増分獲得が多いところが勝つことになる。
「大きなブランドはファンからの根強いリピートでシェアを維持している、と思われている方が多いのですが、それだと『事実の半分』しか見えていません。浸透率が高いブランドは、その分、離反の“絶対数”も多くなります。顧客基盤が大きいので、“離反率”で見れば低いだけなんですね。ではどうやってシェアを維持しているのか? 実は単純な話で、離反する顧客の数以上に新規顧客を獲得し続けることでシェアを維持しているのです」(芹澤氏)
また、ブランドが衰退する時も、離反増加が原因というより、むしろ新規獲得が追い付かない影響のほうが大きいことがわかっている。下り坂にいるブランドも、離反率は競合とそこまで大きく変わらないそうだ。
離反が変数か定数かで言うと、浸透率を増やせばそれだけ離反も多くなるという意味において変数ではあるが、マーケティングで直接的に離反だけ減らそうとしても難しい。従って、離反は変数ではあるが、「独立変数」ではないということになる(独立変数については次ページで解説)。
「ブランドスイッチ」は変数か、定数か
もう1つ、エビデンスベーストマーケティングで基本とされる法則が「DoP(Duplication of Purchase Law: 購買重複の法則)」だ。これは、いかなるブランドも浸透率に比例して競合と顧客を共有するという論。つまり、ブランドスイッチは、カテゴリー内での浸透率で決まるという主張である。
下の図は、日本のシャンプー市場における実証研究の結果だ。たとえば、浸透率がカテゴリー2位のラックスに注目すると、1位のパンテーンと最も顧客の共有(ブランドスイッチ)が多く、3位のメリットとはそれより少ない。それ以降も浸透率に応じて共有率が減少していく。
ただし、例外もある。たとえば、YOLUを主語にすると、8 THE THALASSOと最も多くの顧客を共有している。DoPで考えれば、YOLUもパンテーンやラックスと最も重複するはずだが、データではそうなっていない。
このように、「どの競合とどの程度のブランドスイッチが発生するのが“普通”なのか」というカテゴリーの基準値を押さえた上で、そうした規則性に当てはまらない「例外(サブカテゴリー)」の探索もできることが、DoPをトラッキングすることのメリットだ。
▼DoPについてより深く知りたい方はこちらの記事をご覧ください
「浸透率が変わらないのに、自社からの流出が基準値より高いような状況ならば、何らかの離反防止策を講じる意味があります。逆に、流出が基準値近辺かそれ以下をキープしているのであれば、特に策を講じる必要はありませんし、何かをしたところでリテンションダブルジョパディが働くので、基準値よりブランドスイッチを減らすのは難しいでしょう。このように、定数と変数を区別することで、どこまでが現実的な離反防止なのかを見極められるようになります」(芹澤氏)