山形光晴氏のキリングループでのミッション
田中:後編では「CMO」にフォーカスしてお話を進めていきます。私は5年ほど前にCMOについて様々な観点から実証実験を行ったことがあります。その際の大きなファインディングスとして、「CMOを置いている企業のほうが、置いていない企業よりも優れた業績を残している」という結果がありました。企業規模や業種などの変数を入れてもなお、CMO設置企業のほうが成長性が高かったのです。
では、なぜCMO設置企業のほうが業績が高いのか。これを解釈する際に、山形さんにインタビューさせてもらい、お話を大いに参考にさせていただいたという経緯がありました。そこで、今日は「企業の中でCMOが果たす役割」について、改めてじっくりお話ししたいと思って参りました。
さて、山形さんは現在、キリンビールの常務執行役員でいらっしゃいますが、CMOではないのでしょうか?
山形:社内的にはCMOという呼び方はしておらず、正式にはキリンホールディングスのマーケティング・ブランド担当となっています。ただ、ICT部門も担当していたりするので、海外の方に自分の役職を説明する時には「CMO」や「CIO」を使い分けてお話しすることが多いですね。
その上で、自分はマーケティングだけを行うのではなく、企業の経営に携わっている人間であるという認識でいます。
田中:理解しました。では、CMO的な立ち位置にいる山形さんは、自社の中での自分の役割をどのように考え、どのような取り組みをされていますか?
山形:私が現在キリンで目指しているのは、「マーケティングを企業の中心に据えること」です。マーケティングが企業の中心になければ、CMOを設置しても、しなくても、おおよそ意味はないように思います。
この会社の経営においてマーケティングという機能が本当に必要なのか。会社の成長のために、マーケティングはどのような立ち位置で機能すべきか。そのマーケティングを実現するためには、どういう組織や方針が必要なのか――具体的にはこのようなことを考え、社内改革を進めてきました。
戦略の持続性は1年以下、そんな中でCMOが果たすべき役割とは
田中:では、現代のCMOに求められる力・役割とは、どのようなものだと考えますか?
山形:市場の変化が速い昨今、戦略の持続性は1年も持たないでしょう。そのような中でも、私たちは顧客を第一に据え、その変化を敏感に察知して、アジャイルにアクションを起こしていかなければなりません。リスクを取って、失敗を恐れず、トライしていく。これがマーケティングにできる重要な仕事の一つであり、またCMOの大きな役割は、そのベースにあるマーケティング戦略をその時々でどう変えていくかを考えることだと思います。
もう1つ、CMOの役割として大切なのは、マーケティングの考え方がない組織にもそれを浸透させること。さらに、その結果として事業成長を成し遂げることです。
たとえば、先にご紹介した「晴れ風」は、顧客志向のマーケティングをもって成功した事例であり、これにより社内の雰囲気が変わったのはたしかです。私は、こうした成功事例を並べて、顧客志向のカルチャーを社内に根付かせていきたいと考えています。