宣伝色の薄さは逆に偽善的な印象を生む?
ここで、クリエイティブカルテに寄せられた自由回答を見てみましょう。
・資源を無駄なく再利用するサントリーの企業活動が素晴らしいと思った(男性10代)
・日本ではペットボトルの再利用化がまだまだ進んでいない中、サントリーは独自の企業力でサステナブルに力を入れている(女性40代)
・サントリーは商品を宣伝するだけでなく、責任ある企業だということがわかった(女性60代)
テレビCMが流れる際、消費者は「企業の宣伝が始まる」と認識して身構えます。「ならば、SDGs広告では宣伝色を薄めたほうが良いのでは?」と思われるかもしれませんが、宣伝色の薄さが逆に違和感を与えて「偽善」などのネガティブな印象を生み、消費者の「応援したい」という気持ちにつながりにくくなるのです。
サントリーは「水と生きる」というキャッチコピーとともに、広告コミュニケーションを長きに亘って実行してきました。そのような背景が、消費者にSDGs広告と企業活動の連動を感じさせ、クリエイティブに対する高評価の要因にもなっているのでしょう。
ボトルは資源!篇では『また逢う日まで』の歌詞「別れのそのわけは」に重ねる形で、擬人化したペットボトルとの別れを描いています。見る者の感情を揺さぶる演出と言えるでしょう。しかしながらSDGs CM全体の傾向を眺めると、感情的な演出は必ずしもポジティブに受け取られるわけではないようです。

図4は、SDGs CM計115素材について「スタイリッシュさ」と「非現実感」の偏差値を算出し、散布したものです。両者の相関係数は0.25で、低いながらも正の相関が確認できます。つまり、スタイリッシュな表現×非現実的な表現は、ネガティブに受け取られる可能性があるということです。
セリフと映像を用いた説明の妙
『また逢う日まで』の楽曲を用いてリサイクルを暗示することは“スタイリッシュな表現”と言えます。またペットボトルを擬人化することは“非現実的な表現”と言えるでしょう。図4で、スタイリッシュな表現×非現実的な表現はネガティブに働くことを示しましたが、ではなぜボトルは資源!篇は高評価を得ているのでしょうか?
ボトルは資源!篇の特徴として、メッセージが具体的かつ丁寧である点が挙げられます。まずは、CMのナレーション(一部抜粋)を確認してみましょう。
(稲垣)「あー。ごちそうさま。今日はその後の話をします。」
(香取)「飲み終わった後のボトル、正しく捨てれば何度でも何度でも蘇る。」
・・・
(草彅)「助かるわ。」
CMの冒頭で、稲垣さんは「ペットボトルを捨てた後にどのようなことが起こるのか、説明を行います」という丁寧な前置きをしています。次のナレーションでは、香取さんがペットボトルのリサイクルをやさしい言葉で説明し「あなたも貢献できますよ」と行動を喚起。CMの最後にゴミ収集業者役の草彅さんが登場し、リサイクル可能な状態で捨てることにより、誰かの役に立つことを短いワードでシンプルに伝えています。
映像表現にも注目してみましょう。このCMでは「ペットボトルの中身を空にする」「ラベルを剥がす」「潰す」「捨てる」それぞれの工程を1カットずつ切り出して描いています。これにより、リサイクルまでのステップをわかりやすくレクチャーしているのです。セリフだけでなく映像でも行動を喚起しています。