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多様化するファン層をSNSから可視化 東映アニメーションがソーシャルリスニングに注力するワケ

 2030年にはグローバル市場で600億ドルまで拡大が見込まれるアニメーション市場(JETRO調査)。そんな中、『ワンピース』『ドラゴンボール』『プリキュア』や『ゲゲゲの鬼太郎』などの人気アニメ制作を手掛ける東映アニメーションは、2024年1月にソーシャルリスニングツール「Meltwater」の運用を開始。コンテンツや広告施策に対する反応などSNS 上の様々な発話を通じ、多様化するファン層それぞれの姿やニーズの分析を行っているという。東映アニメーションの鈴木篤志氏と高澤慧伍氏、Meltwater Japanの山﨑伊代氏に取材し、顧客起点で迅速な施策改善を行うためのヒントをうかがった。

企業が伝えたいことを宣伝してもヒット作は生み出せない

MarkeZine編集部(以下、MZ):海外での市場規模拡大が著しいアニメ・マンガ市場ですが、市場が抱える課題について御社の見解を教えてください。

高澤:ご認識のとおり、アニメ市場は世界中に広がっています。そのため日本国内だけではなく、“世界規模でファンを増やすこと”を意識してコンテンツ制作を行う必要があります。それにともない、海外市場のオーディエンスデータを分析する必要があるのですが、国内の調査ツールだと取得できるデータ量に制限があることがほとんどです。だからといってリサーチ会社に市場調査を依頼すると莫大なコストと調査の時間がかかってしまいます。これは多くの企業が抱えている課題の一つだと考えています。

東映アニメーション株式会社 営業企画本部 企画部 IP 戦略室 リーダー 高澤 慧伍氏

鈴木:一昔前であれば、派手なプロモーションの展開でヒットを生み出すことができました。しかしSNSの普及により、ほとんどの人が口コミを確認してからアクションを起こすようになり、認知拡大を目的とした宣伝だけではヒット作を生み出すことが難しい状況です。

 東映アニメーションは国内アニメ製作会社として非常に歴史のある会社です。そのため、従来の宣伝やマーケティング手法に関するノウハウも沢山保有しています。ですが、それだけでは今の時代に合わないという課題も抱えていました。

東映アニメーション株式会社 取締役 営業企画本部副本部長 鈴木 篤志氏

アニメのライバルは“世の中のすべてのコンテンツ”

MZ:貴社では2024年の1月からソーシャルリスニングツール「Meltwater」を新たに導入していますMeltwaterの導入に至った理由を教えてください。

高澤:消費者の可処分時間の取り合いが激化している現在、アニメ会社の競合は世の中のコンテンツすべてです。そのため、トレンドを素早くキャッチし、制作やプロモーションに活かしていく必要がありました。

 そんな課題を感じている中で、出会ったのがMeltwaterでした。同ツールは、グローバルでSNSのデータが取得できることに加え、Xの全量データを取得することができる部分が当社の戦略とマッチしており、導入を決めました。

鈴木:アニメコンテンツは、たとえ優れた作品でもヒットしないことが多々あります。一方、SNSでバズることで大ヒットにつながるコンテンツもあります。

 これらの現象が起こる一番の理由は、クリエイティブとマーケティングとの不一致だと私は考えています。どんなに素晴らしい作品でも需要のない市場に投下してしまってはヒットしません。常日頃からファンが興味を示しているポイントや評価している部分を把握しておくことが肝要です。ソーシャルリスニングの実施は需要を把握する有効な手段の一つであると考えています。

「セグメント細分化」「他の興味分野」をターゲット拡大の糸口に

MZ:今回東映アニメーションが導入したMeltwaterはどのようなツールなのでしょうか。

山﨑:様々な機能がありますが、東映アニメーションさんには、主に三つのツール・サービスを組み合わせてご利用いただいています。

 一つ目が「エクスプロア」です。これは全世界のニュースメディアやテレビ放送データ、主要SNS、各国のローカルSNSを網羅してデータを収集・分析するソーシャルリスニングツールです。入力したワードが「消費者の間でどの程度話題になっているのか」などを俯瞰して提示してくれるため、企業側の押し出したいイメージと消費者の目線との間で生じているギャップを把握することができます。

Meltwater Japan 株式会社 Enterprise Sales, Account Executive 山﨑 伊代氏

山﨑: 二つ目が「オーディエンスインサイト」です。これはX上の声をさらに深掘りするツールで、 API連携により、Xの全量データを活用できます。

 具体的な使い方としては、たとえばある投稿が1万人以上にリポストされた際にリポストした人々の属性の可視化や、リポストのきっかけとなる大元の投稿の追跡が行える機能があります。これは、話題化のきっかけとなるインフルエンサーの発見や、炎上原因の特定にも使えるため、攻撃にも守りにも活用できるツールです。

 そして三つ目が、「プレミアムサポート」。これは、お客様自身にツールを使いこなしてもらうことが目的のサービスです。当サービスでは、お客様が当社のツールを活用できるようにサポートしつつ、レポートを読み解く「読み解き会」を毎月実施しています。そのため、当社がただレポートを納品するのではなく、たとえば利用企業がツールを活用して何らかのインサイトを見つけたら、当社が次の分析の切り口を提案したり、そのための使い方をお教えしたりするなど、自社で活用できる機能の拡大を支援しています。

 「消費者の可処分時間をどう勝ち取るか」は、エンタメに限らず、どの業界も共通して抱える課題です。Meltwaterを活用いただいている企業の中にも、いわゆるデータサイエンスのアプローチによってそのヒントを発見したいと考えている方は多い印象です。たとえば、野球ファンにセグメントを定め、楽しみ方の違いなどからさらに細かなセグメントの存在を把握したり、他に興味を持つコンテンツを抽出して分析したりできます。これにより、たとえば異業界との接点を発見して企業とのコラボにつなげるといったユーザー層拡大施策を行うことも可能になります。

特定の人やワード・媒体ごと・競合他社など多様な切り口で活用

MZ:東映アニメーションでは具体的にどのようにMeltwaterを活用しているのでしょうか。

高澤:テレビシリーズや映画の公開後の反応、それらコンテンツの広告施策の反応を様々な観点でモニタリングし分析することで、それ以降の施策に活かしています

【クリックすると拡大します】
『ガールズバンドクライ』に関連した特定のキーワードを含む発話の数(メンション数)の推移。こうした計測によってコンテンツがどれだけ話題になっているかを可視化できる

高澤:たとえば、ゲスト声優やゲスト俳優を複数人起用した時には、告知で出演したニュース番組や記事配信タイミングでの話題数を確認。ファンからの注目度が高い人を分析し、今後のゲスト起用の判断材料として活用しています

 また、モニタリングの観点では、「メディアごとの反応」も挙げられます。施策実施時に、何が話題になったのか、性・年代それぞれでどのような反応があったのか、各媒体での反応を分析。媒体ごとのコミュニケーション方法を検討するヒントにしています。

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『ガールズバンドクライ』における媒体別の分析結果の一部(Xでの傾向)。媒体ごとに深掘りするための切り口として、リポストなどの投稿タイプ別(画像上)、投稿に含まれるポジティブ、ネガティブなどのセンチメント別(画像下)などがあり、それぞれで全体における比率や期間内の推移の変化を分析できる

高澤:「特定のキーワード」からも、発信した情報に対する反応をチェックしています。Meltwaterが持つアラート機能で特定のキーワードを設定することで、そのワードが一定数以上発信された際にメールで通知を受け取れます。

 たとえば直近では2024年10月4日に公開された『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』において関連するワードを複数設定。これにより、特に話題になっているワードやファンの間で話題になっていることなどを迅速にキャッチアップできるようにしています。

 そのほかでは、他社の分析にも活用しています。他社による施策の流行度とその要因、当社と他社の施策を比較した際の話題性の違いなどを分析しています。オープンソースを分析対象としているからこそ、こうした他社比較まで容易にできるので非常にありがたいです。

ファン層と施策の成果を可視化 海外展開や施策改善に活用

MZ:海外市場を分析する際には、Meltwaterのツールがどのように役に立っているのでしょうか。

高澤:一番はファン層の可視化です。たとえば、当社が制作している『ガールズバンドクライ』などでは、過去のオーディエンスのセグメントと放送開始後のセグメントを比較して、ファン層がどのように拡大したのかを可視化しています。

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『ガールズバンドクライ』における分析結果の一部で、放送前、1話放送後、13話放送後でのユーザー層の違いを示した図。放送前まではアニメニュースを追っているユーザーが多かったが、放送後は二次創作界隈のユーザーやアニメ・マンガ好きユーザーへの広がりが見られた

高澤:その他、国内のファン層と海外のファン層を比較し、重なる属性、異なる属性のそれぞれを把握できるため、マーケティング戦略の糸口を探る上では非常に有効なツールだと感じています。

MZ:Meltwater導入後により得られた具体的な成果もお聞かせください。

高澤:まず、「施策の成果を数値化して共有」できるようになったのは非常に大きな点です。得られた学びを次の作品の宣伝施策に活かす動きも見られるようになりました。

 また、毎月の読み解き会によりレポート作成を内製化したことで、コスト削減にもつながっています。外部に依頼すると膨大なコストがかかると思いますし、内製化によって市場分析のリードタイムも1~2週間で済んでいます。ツール利用を定着させる観点でもプレミアムサポートの導入を決めたのは正解でした。

ソーシャルリスニングでファン視点のマーケティング実現へ

MZ:今後の展開についてもお聞かせください。

高澤:現在、シリーズ作品では発話量について前作と比較することで目標となる数を設定し、それに向けた施策立案を行っています。今後はこの取り組みをより強化していきたいです。

 XやInstagramでアニメの感想を投稿する方には作品への熱量が高いファンの方が多いので、そうした方々の意見から盛り上がるポイントをキャッチアップするのはファン視点で的確にマーケティングを推進することにつながります。これはソーシャルリスニング抜きでは実現できないでしょう。日本・海外問わず、ファンの反応をしっかり把握し、グローバルでより大きな市場を獲得できるように注力してきたいですね。

鈴木:流行になる前の潜在的なマジョリティの意見を発掘していきたいです。これはSNSの分析を通じてしかできないことだと思います。いち早く彼らを見つけてアプローチをすることで、話題化した際に当社が先行者利益を獲得することにもつながるでしょう。

 テレビアニメも今では視聴率だけでは評価できません。そうした意味では、IPの価値判断の一つとしてUGCがどれくらい展開されているかを指標にして映画化やグッズ化を判断できるようにもしていきたいと思います。

山﨑:ソーシャルリスニングにおいて正確に分析するために意識すべきはSNSの上のノイズを除去することであり、それを相談できるパートナーが不可欠です。当社としては引き続きMeltwaterで得られるインサイトを通じ、東映アニメーションのグローバル化推進のお手伝いをしていきたいです。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:Meltwater Japan株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/03/26 10:00 https://markezine.jp/article/detail/47216