米シリコンバレーのテクノロジースタートアップ
有園:長山さんが共同創業者として名を連ねるC1Xは、データテクノロジーやデジタルマーケティングの領域において、世界の大手企業との豊富な取り組みによって多くの知見を蓄積している企業です。まずは会社の概要について教えてください。
長山:C1Xは、10年前に米シリコンバレーで創業した企業です。インドにテックセンターを置いており、従業員の9割以上がエンジニアやデータサイエンティストです。創業メンバーであるCEOのムクンドゥとCTOのラージは米Yahoo!の出身で、様々な大規模なシステム開発プロジェクトをリードした経験が豊富です。
長山:当社では、自社サービスとして「Customer Data Marketing Platform(CDMP)」を開発し、クライアントに展開しています。CDP(Customer Data Platform)に、あえてMarketingの「M」を足した名称です。米国でも「CDPを導入したはいいが、どう活用すればいいのかわからない」という会社が多く、CDMPを通じて、クロスチャネルで一元的にマーケティング施策を実行することの重要性を提唱しています。
米パブリッシャー、次世代型アドネットワーク構築に挑む
有園:米国では、大手パブリッシャーグループとの取り組みも進んでいるそうですね。どのようなプロジェクトですか。
長山:サードパーティCookieが使えなくなることを見据えて、企業の対応策は大きく2つに分かれています。ファーストパーティデータによるIDを活用することと、コンテクストを上手に活用することです。
ある米国の大手パブリッシャーグループでは、コンテクストの活用にかなり力を入れており、自社でDSP(Demand Side Platform)を保有し、カスタマイズし、精緻なコンテクスチュアルターゲティングを実装しようとしています。さらに、他の大手パブリッシャーにも声をかけ、ネットワーク化し、広告主や広告代理店が一元的に出稿できるようにしたいと考えています。
つまり、高品質なメディアの連合と、高品質なコンテクスチュアルデータを組み合わせることで、サードパーティCookieを超えるパフォーマンスを発揮する次世代型コンテクスチュアルエコシステムを目指しているのです。
有園:どのような背景から、そのような動きが起きているのでしょうか?
長山:サードパーティCookieの制限に加え、MFA(Made-for-Advertising)と呼ばれる、広告のためだけに作られた低品質のWebサイトの氾濫、そして広告のクオリティ低下など、世界的にパブリッシャーの収益が落ちているという強い危機感が、その背景としてあります。
これまでのようにGoogleの仕組みに依存していたら、パブリッシャーとしての自主的な経営が難しくなる中で、収益が低下し続けるという苦しいスパイラルに陥ってしまいます。そのような未来を回避するために、パブリッシャーは独立自営の力を取り戻し、持続的にマネタイズできる新たな戦略の構築に取り組んでいるのです。
端的に言うと、Googleを始めとする大手プラットフォーマーの支配から脱却して、良質なコンテンツと精緻なコンテクストを本源的な価値とすることによって、パブリッシャーが再び主導権を握る次世代型アドネットワークを作ろうとする動きが出てきているのです。