プラットフォーマー依存からの脱却
有園:日本でも大手メディアグループが様々なWebメディアを運営しています。それぞれのサイトは分かれていますが、共通のIDで記事を閲覧すれば、ユーザーの興味・関心などを把握できます。それを広告配信に活用できる仕組みをパブリッシャーが持っていれば、収益向上につながります。
長山:さらに、より深く記事の閲覧傾向を読み込むことができれば、たとえば「生成AI関連の記事を読んでいるインプレッション」を広告主に販売することもできます。
有園:コンテクストを分析するために、IDも活用するのでしょうか。
長山:IDがあればコンテクストをより強くコントロールできることは確かです。しかし、顧客ID基盤をもっていないパブリッシャーもたくさんあります。大きなエコシステムを成立させるために、コンテクストだけでIDと遜色のないクオリティのターゲティングができるようにしたいと考えています。
有園:日本で例えると、新聞社やテレビ局、地方の系列局などを含めた大手メディアグループのアドネットワークやデータエコシステムを作ることも可能だと思います。米国では既にそういった動きがあるのですね。
長山:GoogleがサードパーティCookie廃止を撤回すると発表しましたが、サードパーティCookieが残るとしても、データ利用の同意率を高めることは難しいと思います。並行して自社でアドネットワークやデータエコシステムを構築したほうがいいと判断する企業は多いと見ています。

データ統合で「深い顧客理解」が可能に
有園:次に、広告主側の企業との取り組み事例を教えてください。
長山:世界的に有名なブランドを展開する米国企業のケースでは、2018年にEU(欧州連合)がGDPR(一般データ保護規則)を施行した当時、顧客データを様々な部署、様々なチャネル、様々なツールでバラバラに数億人分ほど集めている状況でした。GDPRが施行され、ユーザーが「私のデータを消してほしい」と要請できるようになりましたが、データが散在していると、該当するデータを探して消去するのに膨大な時間と労力がかかります。数十ペタバイトのデータを、約30名のデータエンジニアが月に1億円ほどのコストをかけて探し、消去するというイメージです。
データ統合を進めたことで、現在はエンジニア一人の体制で、10分の1のコストでデータを処理できるようになりました。GDPRはもちろん、米カリフォルニアのCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)や韓国のPIPA(個人情報保護法)も、すべて当社の仕組みで対応できています。
一方、ユーザーのデータを一元的に把握できるようになったため、それを分析やマーケティングなどの用途にも活用できるようになりました。深い顧客理解に基づいたマーケティング活動が可能なのです。
この事例企業では、従来はマーケティング戦略を特定のチームが担い、別の部署がメールマーケティングを実施したり、アプリのプッシュ通知を担当したり、コンテンツマーケティングを行ったりと、施策が分散してサイロ化していました。そうなると、メッセージが重複したり、時期がずれてしまったりして、ユーザーに対して一貫したメッセージを届けられません。多くの企業が抱える悩みです。

長山:CDMPでデータを管理すれば、ユーザーの状態を1ヵ所で把握して、メールや広告の配信、アプリのプッシュ通知やバナー表示など、すべて1ヵ所で実行できます。常にユーザーの最新の状態を把握できるため、次にどんなアプローチをすればいいのか明確になり、カスタマージャーニーを円滑に進められます。それがCDMPの最大の特長です。
有園:日本でもCDMPを活用して支援している企業はありますか。
長山:大手ECサイト運営の企業を始めとして、いくつかの事例があります。やはり、各社で共通しているのは、部署や担当が分かれていたり、様々なツールやシステムが散在していたりすることで、データがユーザーにひもづいていません。そのため、一元的なメッセージを届けることができず、カスタマージャーニーを適切に進めることが困難だということです。CDMPの導入によって、メール配信、アプリのプッシュ通知、オウンドメディア上のバナーや動画、外部サイトの広告配信、リテールメディアなど、すべての施策を1ヵ所で行う体制に切り替えることを目指す企業が増えてきています。