社会的意義のないビジネスはしんどい
田岡:これからの時代、ブランディングに求められる要素は何だと思われますか? 僕は「カテゴリーグロース」だと考えています。

田岡:これまで「ブランドをどうするか」という視点で議論されることは多かったものの、消費者が求めているのは結局そのカテゴリーなんですよね。ブランディングを通じて自分たちのブランドを「カテゴリーリーダー」や「カテゴリーキング」にして、カテゴリーとともに世の中を前進させていく。これもブランドの生存戦略の一つだと思うのですが、木村さんのご意見もうかがえますか?
木村:やっぱり「社会的意義の追求」は無視できないと感じますね。「そのブランドは世の中のためになっているのか」という視点です。たとえば同じOEMメーカーで製造された化粧品が、パッケージや商品名を変えて複数の企業から販売されていたとします。各社がインフルエンサーにPRを依頼して、世の中に似た商品が乱立した場合「そのブランドは人々の肌を美しくしているのかな?」と思ってしまうんです。ビジネスとして勝ち筋は見出せているのかもしれませんが、事業としても正直しんどいと思います。
田岡:しんどいですよね。
木村:「これが売れる」という情報が流れて、参入して、すぐに在庫を抱えて、在庫がゆくゆくはゴミになる。ブランドがそんなことを繰り返す間、消費者はいろんなブランドにスイッチするわけです。トレンドを追う楽しみは提供できても、真のベネフィットを提供できているブランドがどれほどあるのか。そもそもブランドは儲かっているのか。支援会社の立場になった今、特に意識するようになりました。ブランドを立ち上げるときに「本質的な意味で世の中のためになるか」という問いを立てることは、聖人君子的な意味ではなく、ビジネスの持続可能性という観点で非常に有意義だと感じます。
田岡:めちゃくちゃ共感します。ブランドづくりのワークショップで講師を務める機会があるのですが、そこで最初に投げかける問いがまさに「世の中にあるすべての課題を差し置いて、あなたが解決したい課題は何ですか?」というものです。僕は「アルティメットイシュー」と勝手に呼んでいます(笑)。あらゆるイシューがある中で「なぜそのイシューを解決したいのか」がクリアになっていなければ、ブランドに魂が入らないと思っていて。逆にそこを追求できている経営者やブランドは、迷っても原点に立ち戻ることができるから強いですよね。表層を撫でるようなブランドをつくっても、消費者にバレてしまう気がします。
木村:そうなんですよ。結局、誰も得をしない。
