技術の民主化のもと改めて重要視される顧客体験
リテールエコシステムの活性化にともない、企業が選べる技術の選択肢は広がっている。だからこそ、必ずしも常に最先端のテクノロジーばかりを有望視するのではなく、自社の掲げる理想や提供価値を実現する手段として最適なテクノロジーを選択することが重要だ。
ドミノ・ピザのクリストファー・トーマス・ムーアCDOによる基調講演では「テクノロジー主導のイノベーションを通じて消費者のニーズに応える」と題して、まさに理想の顧客体験の実現のための技術活用について語られた。
トーマス・ムーア氏は同社がいかにして継続的なデジタル・イノベーションを次々と起こしてきたかを示し、中でも大きなゲームチェンジャーとなったのは、2008年のピザ調理から配達までの過程をトラックダウンするデジタルプラットフォームの導入だったと振り返る。

「それまでは、顧客は電話でピザを注文したらあとはひたすら待つだけだった。ピザは今どこにあるのか?いつ届くのか?まるでわからない。デジタルプラットフォームにより我々はこのブラックボックスをオープンにしたのだ。ピザがどこで作られて、どのように運ばれているかを見えるようにし、そしてピザの到着時間を顧客に伝えることができるようになった。これは、顧客の思いに寄り添うサービスの実現でもあった」
以来、ドミノ・ピザは、AIを使った販売促進キャンペーンから、生活者インサイトの取得など、様々な場面でデジタルを活用することで変革を続けてきた。
注文&デリバリーにおいては、2023年にグーグルと提携しGoogle Maps APIを活かして、路上や公園のベンチなど顧客のいる場所にピンポイントで配達できるサービスをスタートした。同年には、ドライブスルーの長い列に並ぶことなく、運転中の車から注文して一番行きやすいドミノ・ピザ店舗までドライブし商品をピックアップできるiPhoneユーザーのためのサービス「Apple CarPlay」も開始した。
トーマス・ムーア氏はこうしたデジタル・イノベーションやサービスを前進させるためには、生活者が持つ願いや悩みや不満の本質を理解することが不可欠だという。
インサイトを捉えた施策でアクティブユーザー300万人増
「エマージェンシー・ピザ(ピザ1枚無料)」というキャンペーンは、ピザとは関係のない生活者の日常のペインポイントから生まれた。ピザを1枚注文するともう1枚無料でついてくるといったキャンペーンは日本においてもよく見かけるが、エマージェンシー・ピザは日常生活で起こる小さなアクシデントやハプニングが発生し、注文者が緊急事態と判断した際に慰めとして、期間中1回に限りミディアムサイズ・トッピング2種のピザ1枚を無料で提供するというもの。
たとえば「料理を黒焦げにしてしまった」「釣った魚をうっかり逃がしてしまった」「停電した」「大渋滞でデートの約束に行けなかった」などだ。
本キャンペーンは米国のロイヤリティプログラム会員向けの施策で、ユーザーが会員アカウントにサインインし、8ドル以上の注文をすると、自動的にエマージェンシー・ピザのクーポン1枚が発行される仕組みで、2023年10月から2024年2月まで行われた。

人々を癒す存在になることがドミノ・ピザの目的だと示したこのキャンペーンは好評で、ロイヤリティプログラムのアクティブメンバーが300万人(10%)増加し、同社の2024年第1四半期の売上の向上にも大きく貢献したとされる。トーマス・ムーア氏はこれらの実績とともに「インサイトを深くとらえ、ペインポイントを解消するとき、経済効果も最大限増幅する」と締めくくった。