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MarkeZine Day 2025 Retail

人起点の顧客関係構築を考える

登山の楽しさと共助の精神が人を動かし、データが生まれ、命を救う。ヤマップに聞く、データ活用の根本

「楽しい」が人を動かす

 ――ヤマップさんは地域とのコラボもされていますね。印象的な取り組みはありますか?

 小野寺:自治体とのお仕事で特に大きな成果を残せたものは、「岐阜のグランドキャニオン」ですね。人口約1万人の岐阜県川辺町に人口を超える登山者が足を運んでいます。

YAMAPモデルコースhttps://yamap.com/model-courses/23299より
YAMAPモデルコースより

 きっかけは町役場の方が、遠見山を「岐阜のグランドキャニオンと呼んでいます」と当社の営業担当者に紹介したことです。私が一人の登山者として初めて聞いた時に「面白い、行ってみたい」と思いました。そこで担当者がオウンドメディアの「YAMAP MAGAZINE」で特集し、町との協定を結ぶなどPR面でもいろいろな取り組みを行ったところ、爆発的に人気が出て登山者が集まり、テレビの報道番組やバラエティ番組、新聞、旅行系雑誌など、様々なメディアにも取り扱われました。

 YAMAP MAGAZINEで紹介した「麓の売店で地元の特産品である五平餅(ごへいもち)を買って山頂で温かい状態で食べる」というスタイルが評判になっていたり、町にある更地を町が借りて駐車場にしたり、ボランティア団体が登山道を整備してくれたりと、登山をきっかけに町が活性化しています。整備費用をクラウドファンディングで調達していて、その支援者数は2万3,000人を超えます。ここまで来ると町全体と登山者との共創ですよね。

 ――小野寺さんは「面白さ」の種を見つけて育てるのがお上手ですね。その発想はどこから来るのですか。

 小野寺:発想の際にどの施策でも共通しているのは、ユーザーを観察してくすぐるポイントを探すことと、働きかけによって思考や行動をどう変えてもらいたいのかを考えることです。そして、もう一つはできるだけゲーミフィケーションを取り入れることです。やっていて楽しいと人は動いてくれます。

 たとえば、山梨県の甲府市を中心とした9市1町で実施した事例ですが、域内のいくつかの特定の山に登ると各オリジナルのデジタルバッジが獲得でき、そのうち3種類のバッジを集めるとオリジナル手ぬぐいがもらえるキャンペーンを実施しました。先着2,500枚の手ぬぐいを用意していましたが、なんとこれに参加した人は2万人以上。しかもその9割は県外からの参加という想像以上の結果につながりました。

YAMAPへの「応援の気持ち」がマネタイズにつながるといいな

 ――今後も様々なチャレンジをされるかと思います。登山客にとってYAMAPはどんな存在でありたいですか。

 小野寺:まずはビジネスである以上、マネタイズをしっかり行っていきます。とはいえ、お客様に感謝されながらお金を出していただけることが大切だと思っています。それには、ユーザーさんが納得するサービスを提供することが最優先です。

 以前、YAMAPの有料会員であるプレミアム会員の皆様に会費の支払理由を尋ねたところ、44%の方の回答が「YAMAPを応援したいから」でした。この割合をもっと増やしていきたい、「YAMAPにお金を払うと、こんなに安全度が上がる」と言われるユーザーとの共創サービスを目指したいですね。

 現在の日本では日常で生命の危機を意識することはほとんどないと思います。しかし、登山はここを意識する場面があるレジャーです。YAMAPは、山を楽しんでもらうことはもちろん、命を守れるサービスでありたいと願っています。

編集後記(飯髙悠太)

 YAMAPというサービスを聞いたことがある多くの人は「登山用の地図アプリ」との認識ではないだろうか。そこから現在は「命を救う共創ツール」として認識を変えるべく取り組みを進めている。今回はヤマップ安全推進チーム長 小野寺さんに話をうかがった。

 これまで複数の会社でキャリアを積んできた小野寺さんだが、これまでの経験が特に生きているのは「人を観察する大切さ」。たとえば手法が同じ折込チラシでも、商品に応じて意思決定プロセスが変わるため反応が良い日は異なる。この時に重要なのは人の観察とユーザーの日常を考え、推測し施策を考えること。

ヤマップではユーザーの声を大事にし少額短期保険のメニューを変えたが、このような形で生まれたサービスも少なくない。

 

 また「共創」を大事にし、人を巻き込み、楽しさを提供している。紅葉モニターや全国一斉清掃登山キャンペーンなどは共創によって成長している。結果として、山が綺麗になれば多くの登山客は気持ち良い時間を過ごせるようになるわけだ。

 登山者と家族でもっとも心配なことは遭難である。間違いやすいポイントなどメモがとれ共有ができる機能を搭載。YAMAPのこれらのあり方は「命を救う共創ツール」である。YAMAPを活用していれば、もし遭難しても見つかる可能性がグンと上がる。お金で買えない価値がここにあるのだろう。

 私も山を走るのだが、なれている道だから大丈夫であろうという慢心が時に危険を及ぼす可能性だってあると感じた。山には「楽しむ」の反対に「危険」とまで言わなくてもネガティブな側面がある。事故が起きてからでは遅いからこそ、事前に対策をしていく必要があるのではないか。

 日本にはたくさんの素敵な山が存在するからこそ、YAMAPの成長が今後の登山ユーザーのプラスになっていくことを注目したい。

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この記事の著者

飯髙 悠太(イイタカ ユウタ)

株式会社ベーシック執行役員、株式会社ホットリンク執行役員CMOを経て2022年6月に「ひとの温かみを宿した進化を。」をテーマに株式会社GiftXを創業し、「おもいが伝わる。ほしいを贈れる」選び直せるソーシャルギフト「GIFTFUL」運営。現在、企業のアドバイザーやマーケテ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

那波 りよ(ナナミ リヨ)

フリーライター。塾講師・実務翻訳家・広告代理店勤務を経てフリーランスに。 取材・インタビュー記事を中心に関西で活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/01/16 10:36 https://markezine.jp/article/detail/47480

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