全店舗“直営”ならではの接客が強み、老舗セレクトショップ「SHIPS」
――はじめに、SHIPSが展開している事業概要について教えてください。
三瀬:シップスは1975年に創業した衣料品の企画販売会社です。店舗・Web上でセレクトショップ「SHIPS」を展開しており、国内のセレクトショップとしては老舗になります。特徴は、アパレル業界では珍しく全店舗を直営で運営していること。現在全国に71店舗を展開しており、知識と経験が豊富なスタッフによる充実した接客をご提供しています。
――今回は、SHIPSがリアル×デジタルで進めている様々な施策を紹介していただきます。アパレル業界では、顧客満足度およびLTV向上を目的にしたポイントプログラム施策に各社注力していますが、SHIPSではどのようなプログラムを展開していますか?
三瀬:SHIPSは、会員向けのポイントプログラム「SHIPS Member's Club」を提供しています。プログラムについては、ロイヤルカスタマーの満足度向上を目的にした改革が2019年頃から持ち上がっていましたが、途中でコロナ禍になってしまったこともあり、様々な試行錯誤を経て現在の形になりました。
現在のプログラムは、「人とモノ」の側面にフォーカスしています。特筆すべきは人の側面です。知識のあるスタッフによるスタイリングなど情報・コンテンツを充実させるとともに顧客とのコミュニケーションを強化し、SHIPSの強みがより活きるサービスにしました。さらに直近では、コロナ禍で導入した「来店予約サービス」と、このポイントプログラムの連携施策もスタートさせています。
来店予約サービス導入の効果、購入率・購入単価に大きな違いが
――コロナ禍中、多くの企業が「オンライン接客」「来店予約サービス」を導入しました。SHIPSは、現在も「来店予約サービス」に力を入れているのですね。
小宮:実は、SHIPSでもコロナ禍中にオンライン接客の機能を導入したのですが、予想していたよりも利用は伸びませんでした。一方、来店予約サービスのほうは、顧客から好評だったのです。パンデミックが落ち着き街に出かけられるようになった頃から、さらによい反響が得られるようになりました。コロナ禍以降はニーズが低下するのではという懸念もありましたが、その予想を裏腹に現在も来店予約数は伸び続けています。
――来店予約サービスは、顧客の満足度向上以外にどのようなマーケティング効果を生み出していますか?
小宮:来店予約の効果として大きいのは、やはり来店時の購入率(CVR)です。2024年3~8月の数値を見ると、購入率は約75%です。加えて、お客様の平均単価も予約の有無で大きく異なります。オーダースーツなどの高額商品の購入も含まれますが、通常の来店客に対し、来店予約客の平均客単価は3〜3.5倍と非常に良い結果が出せています。
――予約して来店するお客様のほうがCVRや平均単価が高くなることは想像できますが、そんなに数字に違いが現れるのですね。
小宮:定量的な効果だけでなく、定性的な面でもよい効果が見られています。来店予約サービスでは、お客様が接客スタッフを指名することが可能です。これにより理想的なOne To Oneの接客が実現しており、また「顧客との繋がりを大切にする」という弊社の事業理念とも合致するなど相乗効果が生まれています。
何より、大切なお客様、特にリピーター様にしっかり時間をかけて接客できるようになったことは大きな進展です。来店予約サービスの導入前も担当スタッフと常連様とで来店の予定を共有したりしていたのですが、スタッフが個々にやり取りしていたため、お客様の来店予定を店舗内で共有できておらず、時にはお約束済みのお客様をお待たせしてしまうこともありました。土日の混雑時などは致し方なく、スタッフももどかしさを感じていたのです。来店予約サービスの導入により、そうした問題はおおよそ解決されています。
さらに、予約時にお客様がスタッフを選択できるようになったことで、スタッフのモチベーション向上にも繋がっています。取締役、執行役員、社長も含めた定期的な月次報告でも、「STORES 予約」上で確認できるお客様からのレビューを共有しており、社内全体のモチベーションにも好影響があると感じています。
ドタキャンはない?気になる現場でのオペレーションコストは
――来店予約サービスの導入時、現場でのオペレーションはスムーズにいきましたか?
小宮:SHIPSでは STORES の来店予約システムを導入しているのですが、顧客が来店予約を入れると関係者へメールが自動送信されるようになっており、また予約が入った時点で来店予定人数もカウントされるため、現場でも問題なく管理できています。設定もそれほど難しくなく、導入はスムーズでしたね。
むしろ、店舗全体で顧客の来店時間を共有しやすくなり、現場でのオペレーションの効率化が進みました。アパレル業界に限らず、今後多くの業種業界で来店予約は一般的なサービスとして広がっていくのではないでしょうか。
――なるほど。STORES の来店予約システムには事前アンケート機能もあるそうですが、この機能も有効に活用されていますか?
小宮:はい。事前アンケートによりお客様のニーズを把握しやすくなり、接客の品質が高くなっています。たとえば「息子の成人式に新しいスーツを作りたい」という事前回答があると、スタッフはお客様の来店までに、ご提案する生地の種類を選んだり、小物を揃えておいたりとしっかり準備ができます。
――予約をキャンセルする方も一定数いそうですが、これについてはどうでしょうか?
小宮:意外かもしれませんが、当日お客様が来店されないというケースは体調不良などを除いて、あまりないのです。来店率は平均で95%を超えており、都合が悪い場合は事前に予約を変更して下さる方がほとんどです。
ポイントプログラムとの連携により、新規顧客の獲得も
――冒頭で、ポイントプログラムと来店予約サービスを掛け合わせた施策を展開されているとお話しされていました。この施策についても詳しくお聞かせください。
三瀬:現在のポイントプログラムサービスは2024年にリニューアルをしており、リニューアルと同じタイミングで、ポイントプログラム×来店予約サービスの連動施策を開始しました。現在のプログラムは、来店予約やアンケート回答といった買い物以外のアクションでもポイントを獲得しやすいように設計しており、来店予約とポイントプログラムを連携させることで、店舗利用を促す施策を進めてきました。
――その施策により、どのような効果が得られていますか?
小宮:STORES のデータを見ると、ポイントプログラム×来店予約の施策により2024年3〜8月で予約数が2.6倍、9~10月では3倍に増加していることがわかりました。これにともない、来店予約サービスを経由した売上が2倍以上に増加していることもわかっています。
三瀬:予約数が増えると、CVRや平均単価はやや下降するとは思いますが、この施策を通じてポテンシャルの高い新たな顧客を獲得できていると言えます。現在7割が既存顧客で、3割が新規顧客なのですが、ライトユーザーの来店予約も増やすなどして新規顧客を増やしていきたいと考えています。
また、全体で上位1割のステージの会員がロイヤルカスタマーであると捉えていますが、この割合にはまだ伸びしろがあると見ています。ロイヤルカスタマーを増やし、LTV向上を図っていきたいです。
これからお客様に選ばれる時代に。より良い顧客体験を目指して
――最後に今後の展望をお聞かせください。
三瀬:今後は、ポイントプログラムを知らない顧客にも認知してもらえるきっかけを増やし、新規顧客の利用をさらに増やしていきたいです。たとえば、ロイヤルカスタマーから見込み顧客へ口コミを広げてもらえるような効果を期待できる施策などを考えています。
会員プログラムについては、お客様やスタッフからのフィードバックを活かしながら、よりポジティブなサイクルへとプログラムを昇華させていこうとしています。お客様の体験価値を高め、スタッフが自信を持って接客できるプログラムに育てていくことが今後のミッションです。
来店予約サービスの提供を通して、「これからはスタッフがお客様を選ぶ時代ではなく、スタッフがお客様に選ばれる時代になっていく」ということを実感しています。お客様の満足度を高めていくためにも、将来的には、全国すべての店舗に「STORES 予約」を導入していきたいです。
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