田中洋先生のあとがき
コーポレートブランドコミュニケーションを実施する場合に、重要な知見を二人の深い経験をお持ちのエキスパートからお伺いすることができた。学びの重要なポイントが3つある。
第一の学びとして、コーポレートブランドを強化しなければならない、という時に、そもそもなぜ強化しなければならないのか、そのためになぜ人員やコストを費やさなければならないのかを考える必要がある。横河電機で言えば、それは競合企業がブランド競争をしかけてきたからであった。また、日立製作所で言えば、メーカーとして大きな赤字を記録したことがきっかけであった。それぞれの企業にとってこうした状況は切羽詰まったものであったに違いない。コーポレートブランドを強化したいと考える企業はまず、こうした「切羽詰まった」状況が何であるかを考える必要があるだろう。
第二に、コーポレートブランドコミュニケーションについて社内の協力やサポートをいかにして得るかが大きな課題である。まずトップマネジメントに対しては、トップに行きつくまでの中間管理職の納得感を得る必要がある。こうした時、海外での経験が役に立つ場合がある。日本国内でこそ著名企業であっても、海外では知名度ゼロに近い、というケースが少なからずあるからだ。また社内の事業ごとに「取り残さない」工夫も必要となる。企業スローガンやコンセプトは複雑な企業の事業体系を縮約して伝える必要性からどうしても短いものにならざるを得ない。こうした時、「私の事業部にはあてはまらないコンセプトだ」と感じる人に対して、納得感や共感を得る工夫をしなければならない。
第三に、コミュニケーションメッセージを考える時、外部のエージェンシーやコンサルタントに頼るのではなく、自分たちで自社のコアコンピタンスとは何かを考える必要があるということである。コミュニケーションの専門部隊が自ら考えることで社内を説得できるからだ。さらに、現在のターゲット層だけでなく、将来のターゲット層へメッセージを届けることも長期的視野に立って考えることも大事だ。この他に、定期的に調査を実施することで、成果を測定するアクションも必要になる。