マーケティングは経営の真ん中にあるべき
――先生は、経営戦略およびグローバル経営を専門とされています。はじめに、経営目線で見たときのマーケティングの位置づけ、重要性についてお聞かせください。
入山:私は、マーケティング=問題解決であると理解しています。大前提、ほとんどの企業が「自社の製品・サービスを通して世の中を良くしたい」という意思のもと、ビジョンをもってビジネスを興しているはずです。世の中の問題を発見し、それを解決することで収益を上げる――その営み自体がマーケティングと言えます。

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。
ですから、経営戦略においてもマーケティングが最重要です。もちろん、人材戦略や財務戦略なども大切ですが、やはり経営の真ん中にはマーケティング戦略があるべきだと考えます。さらに言うと、そもそも「すべてがマーケティング」なのです。これは私が尊敬するフィリップ・コトラー氏と元ネスレ日本の高岡浩三氏がおっしゃっていた言葉。マーケティングの部署に限らず、法務も人事も本当はみんなマーケティングの視点を持たなければいけないという意です。私もまったくそのとおりだと思います。
――先生から見て、日本企業は経営の真ん中にマーケティングを据えられていると思われますか? MarkeZineでも2024年4月に「経営戦略におけるマーケティング」というテーマで特集を組んだのですが、その取材先を検討する際、経営レイヤーでマーケティングを率いている人、あるいはその役職を置いている企業がまだあまり多くないことを再認識しました。
入山:日本の場合、良いものを安く売ることで、成長してきた企業が多いですよね。1980~1990 年代の日本企業の強さとは、イコール現場(営業)の強さで、マーケティングはそもそも必要とされませんでした。マーケティングが経営の核となり企業成長を遂げる、というようなフェーズは日本ではまだ起きていないと私は考えています。
ですが、近年、世界のトップブランドにランクインしていた日本の大企業が経営難に陥るというようなニュースも出てきました。マーケティング力の有無で、企業の明暗が大きく分かれてきています。日本企業でも、経営戦略においてマーケティングが必須のものとなるまで、そう時間はかからないでしょう。
また、成功している企業は、やはりマーケティングが非常に強いです。たとえば、私が取締役を務めているロート製薬は、マーケティング意識の塊のような企業です。「Obagi(オバジ)」「肌ラボ」「メラノCC」など強いスキンケアブランドを育て上げており、基礎化粧品のカテゴリーでは、売上個数で日本トップを誇ります。効果効能を前面に押し出すプロダクト開発や、百貨店ではないドラッグストアでの商品販売など、一歩先まわりで消費者のニーズを汲み取ってきた結果だと思います。