「顧客視点」のレベルアップに必要な3点セット
――企業として、個人としてマーケティング力を向上させていくために、読者へアドバイスをいただけますか。
入山:大切なのは、「意思」「プロ・ソーシャル・モチベーション」「知の探索」の3点セットだと考えます。
まず1つ目の「意思」は、世の中の問題を発見する力を高めるために欠かせないものです。これはデザイン思考の領域で有名な各務太郎さんに教えてもらったのですが、「自分が望む理想の世界と現状世界の差分」が問題であると捉えると、世の中の問題を見つけやすくなります。

――なるほど。ただ世の中の人々と向き合うのではなく、意思や目的を持った上で向き合わなければ、なかなか問題は見つからないと。シンプルな教えですが、非常に腹落ち感があります。
入山:そうですよね。これからAIが各所で浸透してくると、人間には問題発見能力がより一層求められてきます。なぜなら、問題解決のほうはAIがすぐにやってくれるからです。AIは問題を発見することは現時点ではできません。皆さんにも、まずは自分の意思を持つということを大切にしてほしいです。
ただし、マーケティング力という意味で、ここで言う問題は「顧客が気づいていないもの」であるべきですね。そうでないと、イノベーションにはなり得ません。
次に2つ目は「プロ・ソーシャル・モチベーション」。経営学では、相手の立場で物事を考えるということを「プロ・ソーシャル・モチベーション(prosocial motivation)」と言います。これは若手経営学者アダム・グラント氏が提唱した概念で、近年、グローバルの経営学においても注目を集めているのです。
プロ・ソーシャル・モチベーションについても、小難しい話はありません。先ほどご説明したとおりで「話すではなく、聞いてもらうという姿勢で話す」。「書くではなく、読んでもらうという意識で書く」。つまり、相手の立場ならどう思うか・感じるかという姿勢・意識を“常に” 持つよう心掛けるのです。
そして、相手の立場になって考える力を養うために、意識的に取り入れていただきたいのが、私がよくお話しする「知の深化・知の探索」の「知の探索」です。知の探索とは、既に獲得している知の範囲外にある知をサーチ(探索)し、それを既に持っている知と新たに組み合わせることを指します。
探索する際、一番いいのは、やはり移動することです。高岡浩三さん然り、足立光さん然り、マーケターのトップ・オブ・トップは、皆さん日本中世界中を行き来されていますよね。世界は広いですから。色々な土地へ行き、「知の探索」を続けると良いと思います。

最後に、マーケターの皆さんにはぜひともグローバルを目指していただきたいです。私は日経クロストレンドの「マーケター・オブ・ザ・イヤー」の審査員を務めているのですが、候補の中にグローバルを見据えたマーケティング施策が少ないことを残念に思っています。リスクを取らず、国内に留まったリブランディングやアップデートを繰り返しているだけではいけません。日本企業は、グローバル市場でどんどん競争力を失っていってしまいます。
イノベーションを起こし、グローバル市場で勝てるブランドやプロダクトを日本からも生み出していただきたいです。