「効果測定がしづらい」は広報の共通課題
━━まずは皆様の簡単なご経歴、現職の業務やミッションをお聞かせください。
酒井:私は調査会社やシンクタンクでマーケティングリサーチや生活者インサイト発掘に携わり、2010年に電通PRコンサルティングに入社しました。当社では一貫してリサーチを担当しており、生活者分析、PRコンテンツの作成、メディア分析などを主に行っています。
西山:前職では、オンライン上の風評被害対策会社に所属し、いわゆる炎上のモニタリングやソーシャルメディアの分析をして、クライアント企業が次に行うべきアクションについてコンサルティングを行っていました。2021年4月に電通PRコンサルティングに入社し、以降はSNSを中心に世の中の興味や困りごとを分析し、企業との接着点を探りながら、PR施策への反応や好意的な声の増減など、効果測定のお手伝いをしています。
川田:私は新卒で電通PRコンサルティングに入社し、入社当初からデータを見ながらSNSの分析などを行い、生活者のインサイト発掘や広報の効果測定に携わってきました。
酒井:当社はPR業界では珍しく、昔から調査の部門を持っています。我々データストラテジー部は、広報の戦略策定から効果測定に至るまで、データを活用して支援する部署です。
マスメディアの報道状況、ソーシャルメディア上の生活者の声、検索行動やWebサイトへの流入分析など、様々な角度からデータを収集・分析しています。
━━長年にわたって企業の広報活動を専門的に支援してきた中で、昨今どのような悩みを聞く機会が多いのでしょうか。
西山:様々な調査で共通して、広報担当者には「予算が少ない」「記事が狙ったように出ない」といった悩みがあります。中でも最も大きいのが「効果測定がしづらい、見えづらい」という点です。これは日本のみならず世界共通の課題で、完璧な解決策はまだ見つかっていません。それぞれの担当者が試行錯誤を重ねているのが現状です。
川田:そもそも、広報活動を行う必然性について、広報部門以外の部署の方々の理解が得られていない企業も多い印象です。広報活動は元々長期的な取り組みが多いのですが、他の部署からすると短期的な効果が見えづらい傾向にあると思われます。たとえば「広告を打った方が早いのではないか」「費用対効果が見合っていないのではないか」といった反応をされてしまうこともあり、広報部門が苦労されているケースが多いと感じています。
酒井:効果測定については「日々悩んでいる」というより、むしろ「難しいということを前提にしながら、できる範囲で行っている」ようです。ただその結果、施策への適切な予算配分の判断も難しくなっています。
広報効果測定 難しくなっている理由は「目的とメディアの多様化」
━━広報活動の効果測定はなぜ難しいのでしょうか。
酒井:たとえば、販促活動であれば「セールス」という一つの目的があり、売上という指標で効果もわかりやすく測定できます。しかし、広報活動は目的が一つに絞れず、それが測定を難しくしている大きな理由だと考えています。セールスにつなげたい、自社のブランディングを強化したい、採用につなげたい、株価への影響を期待したいなど、様々な目的があるのです。
また、ステークホルダーもお客様、社員、学生、地域住民など幅広く、多様な方々に対して良好な関係を築きたいという広報活動の性質上、対象を一つに限定できる企業はほぼありません。これらが効果測定を難しくしている要因です。
西山:メディア環境の変化も大きな要因の一つです。つい数年前と比べてもソーシャルメディアの普及は格段に進み、一方でマスメディアの影響力は相対的に低下しています。企業の情報がどこでどのように露出するかを予測することは大変難しい環境になっているのです。