これからのブランドに必要なものは何か?
──アップデートに当たってはどのように取り組んでいったのでしょうか?
今お話しした社会変革や人間軸の変革、そしてアップデートの必要性をインターブランドだけで考えても独りよがりになってしまいます。それよりも、普段からブランディング活動を展開し、「どんなブランドがこれから求められるべきなのか」を常に考え続けているブランドリーダーの方々を交え、我々が持っている仮説に対して議論を行いたいと考えました。そこで、これまでのJapan Branding Awardsの受賞者の方々にお声がけし、コクリエイション・ワークショップを開催しました。
ただ、ブランドリーダーの方々はどうしてもブランド視点になりがちです。そこで、投資家、アカデミア、メディア/テクノロジー、消費者というそれぞれの立場のオピニオンリーダーの方にもご参加いただいて、私と共にパネルディスカッションを行いました。その上で、ブランドリーダーの方々と「ブランドに必要なこと」についてワークショップ形式で議論しました。
──どのような議論がされたのでしょうか?
ディスカッションでは、「現代は団塊世代からα世代まで、様々な価値観が一堂に会し、混在している難しい時代」「リアルな情報が、一瞬で世界中に拡散される」などのブランドを取り巻く現状から、「ルール化と統一化に、過剰に注力し過ぎているのではないか」「逆に、生活者の声を聞き過ぎているのではないか」という課題意識、そして「ブランドには、もっと余白と柔軟性が必要ではないか」「社会的価値がないブランドは、もはや存在できないだろう」といった様々な意見が出てきました。
そこから、新しい評価視点に組み込まれる「余白」や「善」といったコンセプトが生まれました。具体的には、「固定されたものではなく、社会進化に合わせて変化していく可変性=余白があるか」「企業がブランドの価値を測る時、単純なmROIではなく、社会的インパクトを組み込めるような体制になっているか」「ブランドのパーパスを事業活動全体に落とし込んでいけるガバナンスになっているか」などの視点から、今回の評価視点である6つの軸を再設定したのです。
評価軸に追加された「善」や「余白」という視点
──以前の評価軸と比較すると、どのような違いがあるのでしょうか?
Japan Branding Awardsの創設時は「どんな活動をどれだけ戦略的に展開しているか、そしてそれをどのように業務に落とし込む計画を立てたのか」などをしっかり見ること、という考え方でした。
以前と大きく変わったところを4つにまとめると、まず「価値観」です。従来は、価値観に関しては「どんなに優れたものを提供するか」というものでしたが、ここに「善」というコンセプトが入りました。先ほどお話しした「ブランドの社会的な役割の変化」の概念を「善」とし、選ばれるブランドになるための「善/良いこと」という軸が入りました。これは非常に大きな変革です。
もう1つが「余白」の考え方です。「しっかり作って、しっかり展開する」という考え方から、「より能動的に、より創発的に」という考え方にシフトしたわけです。
次に「関係性」です。ブランドを取り巻くパートナーやお客様、様々なステークホルダーとの関係性を、「結果としていろいろな人が関わっている」というものではなく、「ブランドの理念を追求する上で何が必要なのかを考え、その実現のための共創関係が築けているか」に注目することにしました。
後でお話ししますが、今回GOLDを受賞した花王のBioréは、現代社会における肌のストレスを緩和し、快適な生活を追求するため、製品開発はもちろん、手洗い教室や日焼け止め啓発活動を展開し、「生活者のライフバリューとブランドパーパスをつなぐことであらゆるステークホルダーの喜びになること」を意識して関係を築いています。
最後に「インパクト」です。インパクトは、古典的な市場資本主義の指標だけでなく、社会に対する貢献や「善」といったものを踏まえてその影響度を見ていくというものです。
