“受験生応援アイテム”としてのキットカットは口コミで広まった
──キットカットでは「キット、サクラサクよ。」 を合言葉に、2003年から「受験生応援キャンペーン」を展開しています。キットカットの「きっと勝つ」というイメージは、そもそも消費者側で広がったものだそうですね。
村岡(ネスレ日本):キットカットの発音が九州の方言「きっと勝つとぉ!(きっと勝つよ!)」に近いことを由来に、1990年代半ば~後半あたりに「ゲン担ぎアイテム」という認知が自然に広まっていきました。

村岡(ネスレ日本):私も福岡市出身なのですが、受験生だった弟の机に置いてあったキットカットを何も知らずに食べようとして怒られた経験があります(笑)。お客様自身が生み出したことを、より多くのお客様にお伝えしようということで、ネスレ日本では受験生応援キャンペーンを展開しました。
──キットカットの受験生応援キャンペーンの概要を教えていただけますか。
村岡(ネスレ日本):受験生応援キャンペーンは、「受験生を応援したい人」をサポートする取り組みです。不安や緊張と闘う受験生を見守る方々が、キットカットを応援ツールとして活用できるよう、パッケージにメッセージを書ける仕様にするなど応援を促進しています。
──最近は、どういったキャンペーン施策に取り組まれていたのでしょうか?
村岡(ネスレ日本):近年は、デジタルでのキャンペーン施策にも力を入れています。Xでメッセージを募集し、その投稿を包装紙に印刷するといった施策です。また2021年には、教育系YouTuberとのコラボレーション企画を、2023年からはテレビCMなどを含めた大型キャンペーンを展開しています。
ただ、私たちから発信する施策だけでは、メッセージが「届かない人」もいると感じていました。特に、Z世代の受験生にどう届けるかが課題でした。そこで、Z世代は「友人のような身近な存在」に親近感を抱く傾向があることから、TikTokやInstagramのマイクロインフルエンサーを通じて、メッセージを届けることにしました。
インフルエンサーマーケティングの課題と解決策
──インフルエンサーを起用する上で感じていた課題は何でしょうか?
村岡(ネスレ日本):インフルエンサーの方々を大人数選定し、企業側からコラボレーションを依頼するのは、工数を考えると大変難しいものです。さらにブランドとして、“誰も傷つけない”発信内容にするための配慮も必要です。そうなると依頼できる人数は、せいぜい5人が限界でした。そこでブランドと消費者をつなげるユニークなプラットフォーム「osina」を活用しました。
──osinaを運営するNELの西田さんに伺います。osinaとはどのようなサービスなのでしょうか。
西田(NEL):osinaはUGCを通じて購買を促す、ブランド・ユーザー・リテール三方良しのプラットフォームです。

西田(NEL):ブランドは、UGCの創出を目的としたキャンペーンを実施して参加者を募ります。参加ユーザーは該当商品を購入した上で、自分のTikTokやInstagramのアカウントでその商品の魅力を発信する動画を投稿します。
投稿する前にはosinaによる審査があり、ブランドの規定や法令を遵守して制作された動画のみが公開されます。参加ユーザーは動画の再生回数に応じた報酬が得られる仕組みです。さらに投稿動画を見て、ECや小売店で商品を購入したosinaユーザーは、そのレシートを撮影しosinaに登録することで、ポイントがもらえます。

西田(NEL):ユーザーの本音が循環する仕組みにより、ブランドはUGCの投稿を活性化しながら消費行動も促進できるため、広告効果と売上を上げられるメリットがあります。
実は4回目の利用、キットカットがosinaを選ぶ理由
──クライアントにとっての最大のメリットは何でしょうか?
西田(NEL):ブランド様やメーカー様に最も評価いただくポイントは、膨大な量のUGCを創出できることです。実は私自身、自力でインフルエンサー100名に依頼した経験もありますが、工数の多さから「人間の仕事ではない」と痛感しました。それを仕組み化したのがosinaです。

──キットカットのキャンペーンで、osinaを採用した理由を教えてください。
村岡(ネスレ日本):第一に安心感です。osinaでは一定条件下でインフルエンサーの方を選定しているので、ブランド棄損のリスクは最小限に抑えられると考えました。第二に、成果を実感しているからです。実は、既に4回osinaを利用しています。
西田(NEL):2023年の春と秋、2024年秋、2025年の計4回活用いただきました。2024年秋に実施した「キットカット史上最高」の誕生1周年記念キャンペーンでは、累計635投稿と約1,241万再生という想定以上のUGCを生み出した実績があります。
──2025年は、osinaを用いてどのような受験生応援キャンペーンを展開したのでしょうか?
村岡(ネスレ日本):1月18日から2月28日にかけて、「キットカット=受験を応援するツール」というUGCの最大化を目的に、動画制作と投稿を促すキャンペーンを行いました。

村岡(ネスレ日本):投稿された動画では、「応援メッセージ」というテーマを軸に、様々なシチュエーションでパッケージにメッセージを書く動画や、アレンジレシピ動画など、幅広い表現が生まれました。また受験だけでなく、日常で頑張っている人への応援グッズとしても表現されていて驚きました。
377本の動画投稿・870万再生!受験生応援キャンペーンの成果
──どのような成果が得られましたか?
西田(NEL):osinaユーザーの投稿動画は、想定500万再生を大きく上回る870万再生、投稿数も想定の250を上回り、377本に達するなど、非常に良い結果でした。
村岡(ネスレ日本):377投稿という数は本当に素晴らしいです。自分たちでは、これほどの投稿を生む人数をアサインできませんから。
西田(NEL):再生数だけではありません。「#受験」というハッシュタグの占有クラスターを見ると、1ヵ月の平均再生数5,700万回のうち、約12%にあたる800万回がキットカットに紐づいていました。

※クリックすると拡大します
西田(NEL):「#受験」を見ている幅広い層にコンテンツを当てられる状態を作れたことは大きな成果だと考えています。実際、「#受験」というキーワードに紐づくブランドはキットカットのみだったので、「受験といえばキットカット」というイメージの拡大に貢献できたのではないでしょうか。
ハッシュタグの占有率が市場シェアに影響を与える
──売上への貢献度はいかがでしょうか?
村岡(ネスレ日本):osinaでの展開が売上に寄与したかどうかは、正確には測れません。しかし、届けたい層に届く言葉でしっかりリーチできた実感があります。

西田(NEL):実は弊社で、SNSプラットフォーム上のハッシュタグ占有率とブランド購買行動の関連性について、POSデータの詳細な分析を行いました。その結果、ハッシュタグの占有率と販売個数が比例して変動しており、明確な相関関係が明らかになっています。

※分析手法はNELが特許出願中
西田(NEL):つまり、特定期間で集中的にブランドコンテンツを展開し、そのカテゴリーにおけるハッシュタグの占有率を高めれば、市場のブランドシェアが変動するということです。お菓子セクターだとネスレさんが中心になりますが、化粧品セクターでも同様の現象が観測されています。SNSでの消費者認知が広がる中で、UGCの活性化による大きなインパクトが生まれているのです。
UGCを活性化するポイントは「表現の余白」
──UGCが想定以上に活性化した要因は、何だと考えていますか?
村岡(ネスレ日本):投稿募集時のブリーフィングで“表現の余白”を設けたことが、功を奏したと思います。具体的には、素材の使い方を指定しませんでした。こちらからは素材をお渡しするにとどめ、その先の素材の編集や表現はインフルエンサーのクリエイティブにお任せしたほうが、より想いが伝わると考えたからです。「こうやって表現してほしい」と要請するのなら、それは自社で制作するCMでやるべきです。
西田(NEL):再生数の推移を時系列で確認したところ、投稿を見た人が商品を購入して、さらに投稿するというサイクルが長期間で生まれていました。村岡さんが話されていた「表現の余白」によって、たとえば「チョコレートが好きな人」や「勉強を頑張っている人」「受験を応援する人」など、様々な価値観を持つセグメントへ効果的に訴求できていたからだと思います。
──キットカットのマーケティング戦略の展望をお聞かせください。
村岡(ネスレ日本):受験生応援キャンペーンでは、引き続きosinaの力を借りたいと考えています。キットカットを部活の応援アイテムにされる方もいるため、「部活応援」の文脈にも注力する方針です。

西田(NEL):osinaでキャンペーンを行うたびに、そのブランドのファンが蓄積されていくので、次回のキャンペーン時には参加者がさらに増えるはずです。そうしたサイクルの中で、CRMのような取り組みにもosinaが伴走できると考えています。