「令和シニア」の特徴、刺さるアプローチとは?
MarkeZine:サウンドファンが抱えていた課題に対し、Hakuhodo DY ONEではどのような提案をされたのでしょうか?
山口:サウンドファンさんは、既に「テレビの音が聞こえづらい」という悩みが顕在化し、即座に解決策を求める方々へのアプローチは十分にできていました。そこで、ターゲット層を広げること、また日常生活の様々な場面(スライス・オブ・ライフ)から訴求ポイントを細分化し展開することを提案しました。実際に、運用設計でも非リタゲはカスタムセグメント・サーチKWを悩みの深度別に細分化して配信しています。

山口:当社では現代のシニア層を「令和シニア」と名付け、行動傾向やインサイトを徹底的に分析し、広告施策において最適なアプローチを研究しています。令和シニアは、従来のシニアイメージである視力や聴力の低下といった身体的な変化や、今後の健康不安を抱えている世代ではありますが、スマートフォンなどのデジタル機器の活用率は高く、「いつまでも若々しくいたい」というアクティブマインドを持っています。

山口:サウンドファンさんとのお取り組みにおいては、五感の中でも聴力低下に対する強い抵抗感を持つ令和シニア層が多いことが明らかになりました。たとえば視力低下は若い人でも一般的ですが、聴力低下は加齢にまつわることが多いため、認めたくないという心理が働くと考えられます。このような心理的障壁を乗り越えるため、補聴器ではなく、“生活をより楽しくするためのツール”として「ミライスピーカー」を位置づけるコミュニケーション戦略が効果的だと考えました。またクリエイティブ面においても、年齢問わず受け入れられる、スタイリッシュなデザインにこだわりました。
MarkeZine:「ミライスピーカー」は、製品自体もスタイリッシュで素敵なデザインですよね。
山地:シニアの方々を対象にした製品というと、デザインでは大きな文字サイズや特有の色使いなど、ある種のステレオタイプが見られることがありますが、私たちは以前からそうした固定観念から離れたアプローチを選んでいます。実際、従来のカテゴリーに自分を当てはめたくないという感覚を持つ方々は少なくありません。Hakuhodo DY ONEさんも同じ考えを持っており、私たちのコンセプトを十分に理解したうえでクリエイティブを作ってくださいました。
社内で取り組んでいると視野が狭くなってしまいがちですが、Hakuhodo DY ONEさんに支援いただくことで、様々な情報が入るため、自信を持って取り組むことができました。
「ミライスピーカー」が実践したシニアマーケティング
MarkeZine:具体的にどのような施策を展開されたのかをお聞かせください。
山口:CPAを維持しながら獲得件数を積み上げることを目標に、まだ実施していない機能訴求や、イラストを使用したバナー展開などを実施しました。
たとえば、従来は「曲面サウンド」について仕組みをそのまま表現していましたが、技術的な説明よりも、実際にお客様がどのような体験を得られるのかを明確に伝えることを重視。「ボイスクリアテクノロジー」という表現を採用し、より直感的に理解できるようにしました。

山口:また、シーンの描写にも工夫を施しました。これまでは主にリビングで「ミライスピーカー」を置いて家族で視聴するというシーンが中心でしたが、より多様なシーンで利用できることを伝えるため、「キッチンで洗い物をしながらでもテレビの内容がわかる」「深夜でも音量を気にせずテレビを楽しめる」といったシーンも追加。多様なシーンや年代を問わない関心事と結びつけた訴求で、より多くの方々に届けられるようにしました。

MarkeZine:施策によってどのような成果が現れたのか、お聞かせください。
山口:コスト規模は大きく変わらない状態で、CPAやCVRを大幅に改善できています。
また、年齢層についても興味深い変化が見られました。検索とディスプレイの両方で35〜44歳の層からの反応が増加し、ギフトとしての購入が増えたのです。年齢を感じさせないデザインと訴求が、きちんと生活者に届いた結果であると考えています。
山地:興味深いと感じたのは、リスティング広告のキーワードです。「スピーカーおすすめ」「手元スピーカー」といった指名以外のキーワードでもCVを獲得できたことは新たな発見でした。「ミライスピーカー」の場合、商品カテゴリーはPCなど一般的な電子機器と異なり、明確な分類がやや難しいため、どのようなキーワードで検索されるのか予測しづらい面がありました。そのため、正直なところ、一般キーワードでの獲得は伸びしろが少ないと考えていたのです。Hakuhodo DY ONEさんとのお取り組みにより、新たな可能性が見えてきたと感じます。