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MarkeZine Day 2025 Kansai

顧客が見出している価値を説明できますか?パナソニック コネクトに学ぶ、BtoBマーケの顧客理解の秘訣

課題解決のためのパナソニック コネクトの取り組みと、3つのキーメッセージ

 こうした状況に対し、パナソニック コネクトが行っているのが、職能を超えた“全員マーケティング活動”だ。これは「本当に顧客に自分たちの価値を届けられているのか全員で考える」取り組みとなる。背景にあるのは、同社が掲げる「法人顧客価値の原則」という以下3つのキーメッセージだ。

・購入/契約時に顧客価値は発生しない。使ってみて、運用してみてわかる
・価値を決めるのは顧客側、我々ではない
・スイッチングコストが高い故に、消極ロイヤル顧客(※)を生みやすい

※製品・ソリューションに価値を感じているのではなく、乗り換えにコストがかかるからと消極的な理由で使い続けている顧客

 この原則に基づき、価値の“種”を創る活動(プロダクトマーケティング)、価値の種を伝達・訴求する活動(セールスマーケティング)、価値の維持をする活動(リレーションシップマーケティング)と位置付け、マーケティングプロセスと関連する部門はそれぞれどの領域に関わっているのかを定義。一連の取り組みを「顧客(価値)起点のマーケティング」とし、一貫性があり統合された顧客体験やブランディングを実現していく。

 顧客起点のマーケティング実現に向け同社では、システム・データはもちろんコンテンツもすべて連携させ、全員マーケティングに向けた組織・カルチャーの変革を進めている。関口氏によると「特に組織・カルチャーの改革が最大のカギ」となる。富家氏が会場の聴講者に向けて「組織カルチャーに最も力を入れている企業はいるか」と質問を投げかけると、ほとんど手が上がらなかった。

 パナソニック コネクトでは、戦略よりもまずカルチャー変革を推進する意識が長く根付いている。一人ひとりが自律的に動くことを企業として徹底することで組織間の壁をなくし、マーケティングのサイロ化の解消や、全社で顧客に対峙するマインドを醸成できるという。

顧客解像度の向上に効果的な手段とは?

 では、組織とカルチャー、そしてシステムを整えた上で、顧客解像度を高めてそのインサイトを活用するにはどうすればいいのか。

 そこでパナソニック コネクトが行っているのが、N1分析だ。N1分析とは、ある特定の人(N=1)に焦点を絞り、その人の行動や心理状態、感情などを徹底的に掘り下げ、本音やインサイトを発掘する手法を指す。大規模アンケートや傾向分析では見えにくい、一人ひとりの隠れたニーズや不満を見つけ出すことができるリサーチ手法だ。

 反面、個人の判断で選ぶわけではないBtoB商材において、N1分析は本当に有効なのか疑問に感じる人もいるだろう。富家氏が指摘するこうした問いに対し、関口氏は次のように回答した。

 「当社は、顧客価値はお客様が決めるという前提に立ち『顧客が費やすコストに見合った便益×独自性=価値』と捉えています。その便益が具体的にどこにあるのかをN1分析で深堀りし、顧客価値の“種”がどこにあるのか仮説を立て、マーケティング訴求や営業活動に展開し、将来的には次バージョンや新バージョンプロダクトの開発、コンセプト作りや戦略へと活かすことを目指しています」(関口氏)

 パナソニック コネクトがN1分析で目指しているのが、「表面上ではない、本質的なニーズ」「コストに見合う便益」「現実のカスタマージャーニーにおいて、どの顧客接点に課題があるのか」「顧客価値起点で他社にない独自性」を明らかにすることだ。これらのポイントを、顧客企業の担当者1人に徹底的にヒアリングしていく。

 そして得られた結果に対し、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスはもちろん、SEやプロダクト企画など全職能のスタッフが集まって分析を行う。また、N1分析の定性データを基に定量検証を行うなど、定量的な視点も取り入れることで汎用的なインサイト発見を進めている。

 全職能が集まる意図は、職能によって知り得る範囲が異なるからだ。顧客が当たり前と思って話していることも、実は社内で職能が違うと理解や発想すらできない場合がある。
関口氏が「全員集まった分析が最大のポイント」と強調するように、1人の話をあらゆる職能のスタッフで分析することで、新しい視点や発見が得られるのだ。同社では「分析にインタビューの5倍以上の時間をかける」というが、「体感的には『かける』のではなく『かかる』というのが正しい」と関口氏は続けた。

 実際に、以前PCの利用企業の担当者を招いてN1分析を行ったところ、「有線LANポートが備わっているところが最大の価値」という発見を得たことがあった。今や無線Wi-Fiが当たり前の風潮だが、有線LANポートがあることで無線ネットワークのセキュリティ脅威が低くなり、ある企業にとってはそれが大きな便益になっていたそうだ。「社内だけの議論だったら、おそらく気づかない」と関口氏。このように、パナソニック コネクトのバリュープロポジションの解像度を上げている。

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リサーチの“外れ値”こそ宝の山。関口氏が語るN1分析の極意

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/07/24 09:00 https://markezine.jp/article/detail/49038

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