生成AIでもインサイトにたどり着くことは可能
今回の検証を通じて明らかになったのは、分析の視点を入力したり、何回か生成を試す必要はありますが、生成AIでも“インサイト”にたどり着けるということです。特に、生成AIが定性調査における「創造的プロセス」──すなわち、単に発言を要約するのではなく、発言の意味を読み取り、適切な言葉で表現する工程においても高い実力を発揮できることは驚きでした。生成AIが持つ、膨大な言語データに基づいた文脈理解力によって、今回の検証では、対象者が直接述べていないニュアンス──たとえば「自分の成長の手本になる人物」や「等身大で現実的な理想像」など──を適切に抽出・言語化することができました。
もちろん、【前編】の記事で取り上げた通り、分析視点の設計や全体構成の判断といった「問いを立てる力」や「解釈の方向性を定める力」は、引き続き人間に求められます。しかし、生成AIはその土台が定まったあとの「言語化」「表現」のフェーズにおいて、リサーチャーの作業を支援し、質とスピードの両立を可能にします。
“創造的プロセス”がみんなのものに
生成AIに分析の視点を与えることで、対象者の発言の意味を読み取り、発言の背後にある構造を可視化し、適切な表現にまとめる──これまで専門性が求められていたレポート作成のプロセスをサポートできるようになります。これは従来、熟練のリサーチャーだけが担っていたこの“創造的プロセス”により多くの人が関われるようになることを意味しています。
こうした変化は、定性調査の活用のすそ野を広げ、ビジネスのさまざまな場面で生活者の声を迅速に活かせる環境を整える可能性を秘めています。たとえば、これまで1人のリサーチャーが時間をかけて仕上げていたレポートも、複数人のチームで生成AIを囲みながら、意見を出し合い、ディスカッションを通じて作り上げるスタイルに変わるかもしれません。ディスカッションの内容を反映したレポートがスピーディーに生成されれば、より早い意思決定にもつながっていくでしょう。
生成AIは、定性調査におけるレポート作成の工程において、有効なパートナーとなり得ることが明らかになりました。こうした活用の試みは、時間や人手がかかり、専門的なスキルが求められる定性調査における分析へのハードルを下げ、マーケティングアプローチを考える方へと時間と思考をシフトすることにつながるはずです。今回の知見を踏まえ、今後も生成AIを活用した定性調査のあり方を継続的に検証し、より具体的に活用できるよう目指していきたいと思います。