横山氏が考える「新トリプルメディア」
横山氏が提唱する「新トリプルメディアマーケティング」は、「SNS」「コンバージドTV」「リテールメディア」の3つを組み合わせた新しいマーケティング手法だ。なお、「コンバージドTV」とは、従来のテレビ放送(リニアTV)に加え、コネクテッドTVやスマホ、PCで視聴するストリーミング配信なども包括した概念のことを指す。

SNSで発掘したインサイトを起点に、SNS・コンバージドTV・リテールメディアそれぞれに適したクリエイティブを、適したタイミングで展開していく。これが、横山氏の提示する「脱テレビ1強」への最も有力な転換策だ。
なぜこの3つなのか? 理由の1つは、1つのメディアだけで効果的なパーセプションを与えることは難しくなっており、複数のメディアを組み合わせて、購入の意思決定につながるパーセプションを作り出していくことが求められるためである。
もう1つは、消費者行動を「ジャーニー型」ではなく「ビンゴカード」、つまりパーセプションの組み合わせによって購入意思が決定すると考えるためだ。ビンゴ型では消費者によって興味のあるポイントや組み合わせは異なり、順番も様々である。そのため、複数メディアを活用し、幅広いターゲットを網羅し、芽吹いた小さな需要も育てる、カバー力の高いこうした仕組みが必要となるのだ。

従来よりかなり複雑に見える本仕組みだが、「AIを味方につけることで仕組み化できる」と横山氏は語る。
「テレビ1強時代と比較すると、かなり複雑な仕組みとなります。ですが、AIを活用して『装置化』しましょう。仕組みがなければ、毎回毎回『仕掛け』を考えなくてはならない。それでは、マーケティングコストがいくらあっても足りないでしょう」(横山氏)
新トリプルメディアで中核となるのは「SNS」
「新トリプルメディアマーケティング」の中核となるのはSNSだ。「脱テレビ1強」の新たな広告コミュニケーションを開発していくうえで、絶対に外せない装置であると横山氏は主張する。
「SNSは『傾聴の場』です。消費者インサイトを抽出し、広告コミュニケーションやプランニングに活用しましょう。これまでは代理店のクリエイターの頭のなかにあったアイデアから広告を制作していましたが、これからはSNSで見えたインサイト=『バズるフレーズ』に対して、ブランド側からの『答え』としてのメッセージを発信していく時代です」(横山氏)
従来、テレビCMなどの広告制作は、商品のスペックから消費者のベネフィットを導き出し、抽出したエッセンスをもとに、メインターゲットに対して「刺さるメッセージ」を考えるものだった。しかし、これからは様々な消費者に「染み込むようなフレーズ」が重視される。たとえば、「このクルマのボディライン、かっこいいんだよな」といった何気ない投稿のなかに、クルマ好きならではのインサイトが潜んでいるのかもしれない。そのインサイトに対するブランド側からのメッセージは、クルマ好きの心に深く染み込むものとなるだろう。
もちろん、すべてのインサイトをSNSから直接抽出する必要はない。ただ、商品スペック起点やクリエイターのアイデア起点ではなく、消費者起点のコミュニケーション開発をしていく第一歩として、SNSからインサイトを発掘してみる価値は高いはずだ。