次世代のCM出稿に必要な観点は「インプレッション買い付け」
続いて2つ目のメディア、コンバージドTVについて紹介する前に、横山氏は「テレビは1強ではなくなるが、代替する存在もないだろう」と話した。
「視聴率は落ちていきますが、影響力がゼロになることはないでしょう。テレビCMとYouTube広告を比較すると、まだまだYouTube広告の質は低く、消費者に受容されていない状況です。一方、テレビCMならではの高い受容性は、70年近くかけて視聴者との関係性を作り、CMの質や量、タイミングを苦労して調整してきたからこそ。広告はただ見せるだけでは意味を成しません。消費者に自然と受け入れられる土壌が整っている点は、まだまだテレビ特有の強みと言えるでしょう」(横山氏)
とはいえ、テレビの視聴率低下を補完するだけの広告枠は必要。そこで候補に挙がってくるのがコンバージドTVだ。コンバージドTVの概念では、従来のリニアTVに加え、YouTubeや動画サブスクサービスの番組なども、「インプレッション単位で買い付け可能なCM枠」と包括的に捉える。
ポイントは「1本1本を吟味して買うこと」。番組ごとにどんなCMを流すべきか細かくプランニングすれば、リニアTVでもある程度のターゲティングができるようになるだろう。もちろん、デジタル広告のようにきっぱりと配信対象者を決めることはできない。しかし、メインターゲットをしっかりと狙いつつ、周辺ターゲットも含めて広くリーチできることは、インプレッション買い付けCMならではの利点と言える。
広告業界の最前線を走る、リテールメディアの世界
横山氏が「伸びしろが最も大きい領域」として最後に紹介したのが、リテールメディアだ。昨今のリテールメディアは、「店頭に販売されているものを店頭で宣伝するメディア」にとどまらず、範囲を拡大しつづけている。
「たとえば、米国のWalmartは2024年、コネクテッドTVメーカーのVIZIOを買収しました。VIZIOは元々自社のテレビでCMや広告を配信していましたが、ここにWalmartの膨大な顧客データが紐づいたかたちです。これによって、自宅にいながら商品のレコメンド広告をテレビで受け取れる時代に突入しました。店頭のみならず、テレビも、スマホも、リテールメディアの広告枠となり得ます。また、広告対象は店頭販売ができる有形商材に限りません。保険など無形商材の広告も流れ始めています」(横山氏)

広告市場から大きな期待をされているリテールメディア。新トリプルメディアとしての利点は、SNSやコンバージドTVと連携可能で、POSを使った効果検証もできることなどが挙げられる。しかし、短絡的効果を追いかけるのはお勧めできないと、横山氏は忠告した。
「計測できるからといって、数値だけで判断するのはやめましょう。デジタル広告が出始めたころ、CTRやCPAで一喜一憂し、振り回されていた時代と変わらなくなってしまいます。それはあくまで部分最適。『新トリプルメディアマーケティング』の長期的効果はすぐには数値に表れないものです。導入を検討される際はぜひ、数値から入るのではなく、『コミュニケーションのあり方をリセットするにはどうしたらいいのか』という構造の根本から考えていってほしいと願います。またこの本は一見メディア論のように見えますが、本質的にはメッセージ開発論です。そしてテレビ1強ではなくなった新トリプルメディア空間をどんなブランドメッセージで最適化するかをAIとともに考えてみることです」(横山氏)
2025年7月22日に販売される横山氏の著書、『新トリプルメディアマーケティング 3要素の連携を仕組み化し、戦略を最適化する』では、横山氏に加え、各メディアの専門家やクリエイターの立場から、この新しい概念を多面的に解説していく。「テレビ1強」からの脱却を目指す企業や、マーケティング手法をアップデートしていきたいマーケターには、必読の一冊となるだろう。