まるで新たなモールが誕生 チャネル戦略としてTikTok Shopをどう捉える?
国内月間アクティブユーザー数が3,300万以上にのぼり、利用者の世代も着実に広がっているTikTok。数年前に「TikTok売れ」という言葉がマーケティング・EC業界で広がったように、流行の起点としても同SNSは注目を集めている。
そんなTikTokが、2025年6月に日本でソーシャルコマースを実現できる機能「TikTok Shop」の提供を開始する。2021年より東南アジア諸国・欧米などで展開国を拡大してきた背景を踏まえると、待ちわびていた日本のEC事業者も多くいるだろう。ショート動画のマーケティング支援などをこれまでに手掛け、2025年5月にTikTok Shop特化型サードパーティーシステム「DeLMO for TikTok Shop」をリリースしたidentify株式会社の代表取締役CEO 鬼山真記氏も、その一人だ。
「海外トレンドを収集する中でTikTok Shopの存在を耳にし、実際に触ってみたのですが、TikTok内でスムーズに商品購入まで完了できるUI/UXで驚きました。これまで他のSNSで展開されていたコマース機能よりも遥かにスムーズな体験で、『これは日本に上陸したら大きなムーブメントが起きる』と確信したのです」(鬼山氏)

従来、TikTokで商品を訴求し販売につなげるには「TikTok広告を運用して動画内にLPやECサイトへの導線を設ける」もしくは「TikTokで公式アカウントを運用し、プロフィールやコメント欄にリンクを貼る」といったような方法だった。しかし、これらはTikTokからの離脱をユーザーに強いることになり、コンバージョンを生むには一定のハードルが存在する。TikTok Shopは「そんな懸念を一挙に取り払ってくれるつくりになっている」と鬼山氏は熱弁した。
「『TikTok Shop=TikTok内に新たなECモールが誕生する』と伝えると、わかりやすいのではないでしょうか。TikTok Shopを使って商品を並べると、企業・ブランドの公式アカウントやアンバサダー、商品の良さを伝えたい一般人クリエイターなどは、投稿内で商品を紹介できるようになります。
投稿を見て商品に興味をもったユーザーは、TikTokのアプリ画面から離脱せず、見慣れたUI/UXの中でそのまま商品購入が可能です。これまで認知拡大や使い方の紹介といった用途でTikTokアカウント運用をしていた企業・ブランドも、TikTok Shopに出店することで新たな購入導線を得られます。熱量の高さを保ったまま購入に誘導できるTikTok Shopは、これから各社がEC売上を増やす大きな柱となるはずです」(鬼山氏)
TikTok Shop攻略に求められる「コンテンツドリブン」の発想
ただし、TikTok Shopの取り組みを軌道に乗せるには、他のSNSと異なるTikTok特有のアルゴリズムへの理解が必須だ。鬼山氏は「求められるのは『コンテンツドリブン』の発想」だと強調する。
「X(旧Twitter)、Instagramなど、TikTok台頭以前のSNSはいわゆる『フォロワードリブン』で、情報を伝播させるには公式アカウントのフォロワー数を増やす、もしくはフォロワー数の多い人に情報を拡散してもらう必要がありました。
しかし、TikTokはこうしたSNSと一線を画すアルゴリズムを有しています。各ユーザーの閲覧履歴・関心に基づいたコンテンツが思わぬ角度からレコメンドされるTikTokの個性を踏まえ、TikTok Shopで販売を強化する際もおもしろさや学び・発見があるコンテンツをつくっていくと良いでしょう。こうしたアプローチが差別化やバズにつながり、さらに動画や情報拡散につながっていくはずです」(鬼山氏)
地方・新興ブランドにもチャンスがあるかも 欧米では億単位の売上事例も
何気なくアプリを開いておもしろい動画に出会うTikTok。その延長線上で得られるTikTok Shopの体験は、「検索」という顕在欲求から商品にたどり着く既存モールとまったく異なるものだといえる。
「リアルのウインドーショッピングがオンライン上で再現できると考えれば、イメージしやすいでしょう。コンテンツドリブンなアルゴリズムによってTikTokが思わぬ出会いを生んでくれるため、これまでSNS広告の投資額や公式アカウントのフォロワー数の少なさから価値を届けにくかった地方の中小企業などにもチャンスが巡ってくるかもしれません。
実際、欧米ではバズった動画をきっかけにTikTok Shopで数百万円から億単位の売上が生まれた事例が既に存在します。先日も、アメリカで一般人クリエイターの使用動画によって、かかとの角質を除去してくれる電動リムーバーが7,500万円の売上を記録した事例が出ていました」(鬼山氏)
こうした施策の裏で活躍するのが、日頃からTikTokで動画発信をする一般人クリエイターだ。好きなものや得意なこと、年代・性別・家族構成といった個人の属性を生かしながら動画発信をする彼らの表現力を上手に借り、いかにユーザーの共感を生み出せるかが、TikTok Shop攻略を目指す企業・ブランドにとって重要な鍵となる。
実際、TikTok Shopもクリエイター活用を促すため、出店者向けの管理画面で適した人材選定ができる機能を提供している。しかし、エンジニアとしてidentifyでプロダクト開発などを手掛けてきた須山氏は、同機能を見た際に共感を生む動画をつくる上での“ある課題点”に気づいたという。
「TikTok Shop内でのクリエイター選定は、フォロワー数やコミッションレートといったパフォーマンス軸での検索が主軸となっています。
成果の最大化に目を向けた検索軸といえますが、たとえばユーザーの共感を得るために利用シーンを想定して『親子や恋人同士で出演してほしい』、効果・効能をより適切に伝えるため、体型、白髪・シミなど『商材に合ったコンプレックスがあるクリエイターに依頼したい』と属性軸で探したいこともあるでしょう。企業・ブランドのペルソナに合ったクリエイター選定に着目すると、identifyがサードパーティの立場から提供できる機能もあるのではないかと考えました。こうして誕生したのが、TikTok Shop特化型のサードパーティシステム『DeLMO for TikTok Shop』です」(須山氏)

identifyは、これまで縦型ショート動画用素材の収集を手助けする「DeLMO for advertiser」や、クリエイター向け複業支援サービス「DeLMO for creator」の展開を通して、あらゆる性別・年代・嗜好の一般人クリエイターとつながりをつくってきた。「DeLMO for TikTok Shop」では、こうして集まった2,500人以上のクリエイターのアイデンティティを結集し、TikTok Shopの管理画面内で発掘・選定が難しい年齢・職業、身体的特徴、家族や恋人といった関係者出演の可否などの検索軸を設けている。
「『DeLMO for TikTok Shop』を活用すると、0歳~93歳まで(2025年5月時点)の一般人クリエイターの発掘、動画制作依頼が可能です。企業・ブランド側から一方的に魅力を伝えるよりも、共感や体験価値をリアルに伝えてくれる等身大のクリエイターを起用したほうが、TikTok Shopでもチャンスを得られるでしょう。
コンテンツドリブンで情報が拡散されるTikTokで意識すべきは、『WOW体験(驚きや感動)』です。当社はTikTok Shopに特化したクリエイター教育も行っているため、WOW体験やおもしろさ、学び・発見につながる動画から偶然の出会い創出、新たなファン獲得など、TikTok Shopならではのアプローチを手助けします」(須山氏)
TikTok Shop×クリエイター共創 相性の良い商材と訴求法を解説
ここまで、TikTok Shopやクリエイター活用の新たな可能性を探ってきたが、3,300万以上のアクティブユーザーが存在するTikTokに商品を並べ、売上を立てるには、訴求する角度の多様化も求められる。具体的にどんな商材と相性が良いのか、一般人クリエイターを起用したアプローチを考える際のポイントなどを鬼山氏に聞いた。
「TikTokはテキストと静止画だけでも商品訴求ができるECサイトと異なり、動画が必要です。静止画をスライドショーにすることも可能ですが、スマートフォン撮影でも良いので動画をつくったほうが、効果をより高められます。
訴求軸としては、たとえばアパレルなら質感を伝え、商品を手に取る疑似体験ができる動画、おいしさや使い方がわかることで購入のハードルが下がる食品・飲料、キッチン用品であればアレンジレシピやつくってみた動画、コスメであればbefore→after動画(※表現方法には注意)などがおすすめです。価格帯としては、5,000円以内の商品だとTikTokユーザーの衝動買いに耐えうるでしょう」(鬼山氏)
また、商品の魅力を感じたその瞬間に購入を促せる特性をもちつつ、コミュニケーションチャネルとして機能するTikTok内に内包される売り場であることから「ECモールやECサイトよりも密に顧客とつながれるため、ブランド力やLTVの向上にも役立つのがTikTok Shopの特徴」と続ける鬼山氏。
「モール出店をしている企業・ブランドから『割引施策なしに売上を立てづらい』『大型セール期間中は売れるが、F2転換が難しい』といった声をお聞きしますが、TikTok Shopであれば価格ではなく商品の価値や共感にフォーカスした訴求ができるため、利益を損なわずに売上が拡大できます。また、公式アカウントでの継続的なコミュニケーションも可能です。identifyではTikTok Shop用のコンテンツ制作支援も行っているため、お困りの場合は伴走型での支援にも対応いたします」(鬼山氏)
TikTok ShopでEC業界はもっとおもしろくなる AI時代に極めたい多様性と個性の活用
現在、TikTokを利用する主要年代層は10代~20代といわれている(総務省「令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」より)が、30代以上の利用者数も年々増加している状況だ。ソーシャルコマースの浸透とともに、平均年齢層が上がっていくことも予見される。既に0歳~93歳までのクリエイターネットワークを有する『DeLMO for TikTok Shop』を上手に使えば、市場拡大以前からコンテンツを蓄積し、先行者利益を得るのも夢ではない。

「動画を通じたコミュニケーションは、写真・テキストと比べて伝えられる要素が多いため、購入意思を固める上で必要な情報を提供しやすいです。SNSで積極的に情報収集・発信を行う層はオンライン上でのアクションにも抵抗感がないため、クリエイターを巻き込みながら継続的な情報発信をすると、共感や関係深化がより円滑になるでしょう」(鬼山氏)
須山氏は、identifyが掲げる「すべてがアイデンティティになる時代をつくろう」というビジョンに触れながら、TikTok Shopの登場により企業・ブランドとクリエイターにもたらされる良い循環を次のように語った。
「TikTok Shopが浸透し、コンテンツドリブンでものが売れる時代が進めば、クリエイター一人ひとりの価値観や表現が評価される機会も増えるはずです。identifyは企業・ブランド向けだけでなくクリエイターを支援するサービスも展開しており、あらゆる特徴をもつ人々が自らのアイデンティティを発揮する手助けをしたいと考えています。
今回展開を始めた『DeLMO for TikTok Shop』も、ビジョンを体現したサービスの一つです。クリエイターが稼げるチャンスを増やしながら、企業・ブランドに対してもきちんとした成果をお返しする。このサイクルがうまく回り、ビジネスにインパクトを与えられるようになれば、たとえばネガティブに捉えられるような身体的特徴もアイデンティティとして胸を張って生きられる時代になるはずです。私はDeLMOシリーズの提供などを通じて、こうした時代づくりに貢献していきたいと思っています」(須山氏)
「企業・ブランド側も、コンテンツの多様性を極め、より良いコミュニケーションを実現するにはアイデンティティの発掘が欠かせません。このニーズは、『個性の発揮』という意味で世の中のAI活用が進むほど大きくなるはずです。新たなチャネルとコミュニケーションのスタイルが登場し、EC業界のさらなる進化が予想される今は転換期であり、これからさらにおもしろい時代が到来すると思います。『DeLMO for TikTok Shop』の提供や機能アップデートなどを通して、今後もこうした盛り上がりに力添えできたらと考えています」(鬼山氏)
一般人クリエイターのアサインは「DeLMO for TikTok Shop」にご相談ください!
「DeLMO for TikTok Shop」では、2,500人以上の0〜93歳の一般人クリエイターから、年齢・職業、身体的特徴、家族や恋人といった関係者出演の可否など、ブランドのペルソナに合った人を選定することが可能です。