「自分の手でメイクしない時代」もやってくる?変わっていく「美の在り方」
小野:ここまで「Mixed Reality Makeup」がどのような消費者のニーズを捉えているのかお聞きしてきました。最後に、少し先の未来の話もできればと思います。
私は「Mixed Reality Makeup」を追ってきましたが、その進化を見て「近い将来、自分の手でメイクをしなくてもいい時代すらやって来るのでは」という仮説を持っていました。たとえば、AIが顔のパーツや位置を正確にセンシングし、選択したメイクパターンの通りにメイクの物質が顔に塗布されて、メイクが完成するといったようなことです。こういったオートメイクが実現する可能性もあるのでしょうか?

大石:人が思い描けるものは技術で実現できる、というのが私の考えです。「Mixed Reality Makeup」の開発当初、技術の進歩とともに今の化粧の形が変わる時代が訪れるかもしれないと、未来をプロジェクトメンバーと描いていたのを覚えています。
そんな未来も見据え、化粧品メーカーだからこそ先んじて技術開発をすべきだと考え、今の研究を進めています。プロジェクターを小型化してウェアラブルデバイスにしたら、光でメイクする時代も来るかもしれませんからね。
小野:もはや、メイクが物質ですらないということですよね。私たち、電通未来事業総研では、2040年のトレンド仮説として「メタモビューティー」というキーワードを提唱しています。
先ほどお話したオートメイクのように、選択したメイクパターンの通りに顔にメイクが施されるデバイスが未来にできるとすると、その日の気分で、自分のなりたいメイクに変身することができますよね。その変身という言葉から発想した言葉で、画一的な美を追わず、なりたいスタイルに瞬間で変身できるような未来のビューティの在り方を表しています。このメタモビューティーも本当にやって来るんだろうな、と大石さんの話を聞いて鳥肌が立ちました。
※メタモルフォーシス(metamorphosis)とは、変形、変身、変化という意味の言葉生物学では特に昆虫が幼虫から成虫になる際の劇的な形態変化を指すことが多い
もう少し手前の話題として、最近は男性のメイクも浸透してきましたが、さらにメイクのジェンダーレス化が進むと美の価値観も変わっていくだろうと見ています。既に女性の意識に関して言えば、「美容やファッションは他人へのアピールというより自分のため」と回答する女性が約7割という数字もあり、他人からの目線より、自分自身がどう感じるかに主眼が置かれています。個の時代なので、ジェンダーも関係なく、自分自身の感性で楽しむということなんでしょうね。
大石:そうですね、既に変わってきているとも思います。実際、今年1月に出展したCES 2025のブースでは、若い男性が女性と同様に真剣にメイクを試していたんですよ。コーセーは、3G(グローバル、ジェンダー、ジェネレーション)をキーワードに、独自の化粧文化や価値を創出することを目指しています。生成AIの台頭がパーソナライズの加速を容易にしていますし、本当にあらゆる可能性があり、どんな未来も描ける時代です。だからこそ、我々が技術で何を描いていくかが問われています。
今後も人々のニーズを先回りして発掘し、進化させたコーセーの技術で新たなソリューションを作り続けていきたいです。
「心が動く消費調査」概要
