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Z世代を魅了する“懐かしさ”──TikTokで広がるノスタルジーマーケティング

ノスタルジーを戦略的に取り入れるには?成功事例に学ぶ

 DesignRushは、ノスタルジーを効果的にマーケティング戦略へ組み込むための方法として、次の3つのアプローチを提案している。それぞれの手法は、世界的ブランドの実践によって裏付けられている。

(1)レトロ商品の復刻とパッケージの再登場

 最も直接的かつ即効性の高い手法が、かつての人気商品やデザインを復刻する戦略である。代表的な事例が、Nintendoの「NES Classic Edition」だ。1980年代に発売されたオリジナルのゲーム機「NES(ファミコン)」を小型化し、オリジナルのゲームと外観を再現しつつ、HDMI端子やセーブ機能など現代の仕様を組み込んで再発売。懐かしさと新しさを両立させ、ミレニアル世代とZ世代の両方に訴求することに成功した。

(2)ポップカルチャーや象徴的モチーフの活用

 次に効果的なのが、ある世代にとって記憶に残るカルチャーやアイコンを引用する手法である。Microsoftの“Child of the 90s”キャンペーンは、Internet Explorerの再認知を狙った映像広告で、たまごっちやスナップ ブレスレット、フロッピー ディスクといった90年代の象徴的アイテムをふんだんに盛り込んだ。ターゲットはかつてIEを使っていた世代──子ども時代にそれらのアイテムに親しんだ層であり、「あなたはIEと一緒に育った」というメッセージで感情的な共鳴を呼び起こしている。

(3)ストーリーテリングと感情的な広告手法

 もうひとつの有効な手法が、過去の記憶や社会的文脈をストーリーとして語る方法だ。Hovisの“Go On Lad”キャンペーンは、イギリスのパンブランドによる映像広告で、1人の少年が走りながらイギリスの120年の歴史を駆け抜けるという内容。ヴィクトリア朝から現代までの時代背景とともにブランドの歩みを描くことで、「家族とともにあったパン」という感情的な結びつきを強化している。

 これらの事例に共通しているのは、「過去」を単に懐かしむのではなく、現在の価値観と接続し、ブランドの“再解釈”の舞台として活用している点である。ノスタルジーは、記憶を刺激するだけでなく、ブランドとの感情的距離を縮め、信頼や共感を再構築するための戦略的な資産になり得る。

若年層へのブランディングとしての「過去のリブランディング」

 Z世代は、「本物志向」と「セルフブランディング」に敏感な世代でもある。だからこそ、過去のカルチャーが“本人たちによって再定義される”プロセスが重要となる。ブランドは、かつてのロゴやコピー、ビジュアル要素をそのまま復刻するのではなく、彼らが「自分たちのものだ」と思えるような再構成を通じて、過去を未来へとつなげていく必要がある。

 ノスタルジーは、もはや懐古趣味ではなく、戦略的な文化資産だ。それは、Z世代という多感で複雑なオーディエンスの心に“安心”と“共鳴”をもたらし、ブランドとの新たな関係を築く鍵となりつつある。

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この記事の著者

中井千尋(Livit)(ナカイ チヒロ)

大学卒業後、金融機関勤務を経て、イギリスへ留学。そこで培った語学力を活かし、帰国後は企業の語学研修コンサルティングに携わる。シンガポールに渡り、大手日系商社に転職。シンガポール人、インド人、オーストラリア人、モンゴル人、中国人など多国籍社員が集う場でのビジネスを経験。その後、オランダに渡り、ライターとして独立。分野...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/07/07 09:30 https://markezine.jp/article/detail/49367

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