カテゴリー戦略に必須の顧客理解、N1も群も両方重要
松本:書籍を読んで気づかされたことは他にもあります。その一つは、市場構造を理解すること、顧客の頭の中にカテゴリーがどのように描かれているかを調査することの重要性です。それによって、コミュニケーションのターゲットを絞り込み、短期でもなければ長期でもない、中期的な議論ができるようになると思いました。日本は調査をしない国だと言われますが、カテゴリー戦略を行うなら調査は必須ですよね。
田岡:そうですね。特に、定量だけでなく定性も含めて理解することが非常に重要だと思います。最近、カテゴリー戦略が大喜利や占いのように捉えられることがあるのですが(笑)、そうではなくカテゴリー戦略は徹底した顧客理解から始まるものです。
ここはぜひ松本さんに伺いたいのですが、松本さんは顧客理解やリサーチで必須のポイントをどのように考えていますか?
松本:私は「顧客理解=N1“だけ”」になってしまっている部分が少なからずあると思っています。もちろん一人ひとりの理解も大事ですが、市場やカテゴリーを理解するには、顧客を「群」で捉えることも重要です。

カテゴリー戦略を実践する際、「顧客理解が好きな人ほど苦戦するのではないか」という印象を持ちました。“One Person Love”的な顧客理解だけでなく、様々なタイプの顧客の総体に対してカテゴリー名を付けたり、数字で考えたりするような、顧客像を立体的に捉える方法もあります。「個も群も両方重要である」という考えが、もっと浸透するといいなと思います。
カテゴリーを創造し、広げていくのは、優秀なマーケターの使命である
松本:今日はとてもよい機会をありがとうございました。私はちょうど今19冊目の書籍としてセルフブランディングの本を書いているのですが 、今日の対談を通じて、カテゴリー戦略はセルフブランディングにも応用できそうだと感じました。
というのも、自分の属するカテゴリーを転々として、ビジネスキャリアを築いておられる方が一定いらっしゃいますよね。私もそうなんですけど(笑)。これの良し悪しは置いておいて、業界内でセルフブランディングをしていく時には、「No.1になれるカテゴリーを創り続けること」「自身のいるカテゴリーをアップデートしていくこと」が大事なんだなと痛感しました。

田岡:そうですね、私は「カテゴリーに対する思い」はけっこう重要だと思っています。経営において、カテゴリーが“How”になっている企業もあれば、カテゴリーをパーパスに近い“Why”にしている企業もある――うちはここ(このカテゴリー)に懸けるのだという確固たる意志を持てている経営者は強いなとよく感じます。
その思いの強さが、競合との圧倒的な差になることが往々にしてあるからです。私自身、「カテゴリー戦略」というカテゴリーを広げることで、日本社会に少しでも貢献できればと心から思っています。
松本:かく言う私は、No.1になることより65歳まで生き残っていくことを主眼に置いており、かなり“How”寄りなんですが(笑)。田岡さんはご自身のセルフブランディングの観点でも、非常に巧みにカテゴリー戦略を実践されている印象があります。
田岡:いえいえ、ただ「カテゴリー戦略」を広げていきたいという思いは強いです。新しいカテゴリーを創造して、それを広げて価値を創っていくのは、あらゆる優秀なビジネスパーソンの使命なのではと思います。カテゴリー戦略は簡単ではないので、失敗することももちろんあると思います。それでも新たなカテゴリーを、産業を創っていこうとする気概のあふれる経営者やビジネスパーソンが増えるといいなと思っています。
松本:今日はとても勉強になりました、ありがとうございました!
田岡:こちらこそ、ありがとうございました!