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『MarkeZine』(雑誌)

第114号(2025年6月 最終号)
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広告産業のパーパスを考える

なぜオールナイトニッポンはV字回復したのか。ラジオだけにある緩やかなコミュニティとコンテンツ戦略

ラジオ局間の競争から、プラットフォーム上での競争へ

藤平:環境の変化を的確に捉え、ハードとソフトの掛け合わせで体験設計を進化させた結果、広告もV字回復していったと。割と中長期的に振り返っていただきましたが、その中でもエポックメイキングな出来事はありましたか? 特に、コンテンツとしての生存戦略の考え方がシフトしたタイミングがあれば、知りたいです。

冨山:そうですね、いくつかありました。たとえば、『King Gnu井口理のオールナイトニッポン0(ZERO)』にaikoさんがゲストで来て下さり、井口さんと一緒にaikoさんの『カブトムシ』を歌った回、ご存知ですか?

藤平:もちろんです、切り抜き動画がSNSにもYouTubeにも、たくさん出ていましたよね。

冨山:切り抜きに関しては良しと言えないのですが……オールナイトニッポン云々ではなく、コンテンツとしてこれが話題になったのを見て、番組に対する考え方が変わったんです。

 それまでは、いいラジオ番組を作れば何もしなくても番組が広がっていくと思っていましたが、「ラジオ番組」の中での比較ではなく、この時から明確に「コンテンツ」として戦略を考えるようになりました。リアルタイム聴取だけを前提にせず、さらにテレビ、映画、マンガ、SNSと横並びになった時の価値を考えると言いますか。

藤平:広告コミュニケーションを設計する上でも、「メディア(インフラ)」と「コンテンツ」の掛け合わせで相乗効果を生み出し、生活者の暮らしの中に浸透させていくことがますます重要になっていますが、ある意味でそれの先駆けですよね。自分たちの戦う土俵(インフラ)を拡張して捉えた上で、コンテンツ戦略を考えるようになったと。

冨山:そうです。たとえば、朝の通勤・通学の電車の中で、YouTubeを開くのか、X、Instagramを開くのか、それともradikoで昨日のオールナイトニッポンを聴いてもらうのか――そういった競争であると認識したわけです。

今のラジオだけにあるのは「緩やかな連帯感」

藤平:そうした変遷があったことを踏まえて、僕がお聞きしてみたいのは「ラジオは今、誰に向けて発信しているのだろう?」ということです。というのも、かつては「マスに発信するテレビ」に対して「ラジオは比較的パーソナルなメディア」という対比がありました。それこそがラジオの生存戦略だったとも思います。

 先ほど、競合の意識が変わったという話が出ましたが、「ラジオ=個のメディア」という考え方ではないだろう今、ラジオはどこを/誰を向いていますか?

冨山:元々はラジオもテレビと同じく1億2,000万人を相手にするマスメディアだったわけですが、インターネットの登場でそんな話が通るはずもなく。今のオールナイトニッポンはリスナー全体の中でも、特に熱心に聴いてくれている10~20万人規模の「コミュニティ」に向けて作っている感覚があります。

藤平:なるほど。広告業界も、ここ1年くらい「界隈」「ファンダム」のブームが来ていて、一定の規模がある「コミュニティ」や「群」をターゲットにすることが増えています。ただ、「界隈」や「ファンダム」と、ラジオのコミュニティはまったく別のような気がしています。

冨山:その流れ、そしてラジオのコミュニティは異質であるという考え、すごくわかります。

藤平:ちなみに、冨山さんはその10~20万人規模のコミュニティを何と呼んでいますか?

冨山:定義は曖昧ですが、「緩やかな連帯感のあるコミュニティ」と表現することが多いです。ファンダムというと、偶像崇拝する対象が存在し、それを熱狂的に好きな人たちが一定のルールのもとに集まっているイメージがあるので、オールナイトニッポンのコミュニティとは少し違うんですよね。

 オールナイトニッポンには、「1.深夜放送が好きな人たち」「2.何かしらの必然性があってラジオを聴いている人たち(深夜のトラックドライバー、早朝に開店準備をしているお店など)」「3.パーソナリティのファン」といった3つくらいの群があり、この3つが重なり合う円を大きくしていくような意識でやっています。

藤平:ファンダムは「知っている・沼が深いほど偉い」といった印象がありますが、ラジオのコミュニティには序列がないのかもしれませんね。ちなみに、この3つのうち、どこか1つにフォーカスを定めるのでしょうか?

冨山:基本は、「深夜放送が好きな人たち」に向けてコンテンツを届けています。パーソナリティのファンは、いずれにしても聴いてくれることが多いので、ここ以外のリスナーを増やして、全体の円を大きくしていく形です。

 たとえば、ある人気男性俳優の番組も、最初は女性リスナーが大多数を占めていたのですが、番組が終わる頃には男性リスナーが7割になっていたんですよ。女性リスナーの数が減ったわけではなく、男性リスナーが増えて、コミュニティ全体が大きくなっていきました。

藤平:今、そういった社会学で言われる「ウィークタイズ」なコミュニティを形成できているメディア/番組/ブランドって、ラジオ以外に見当たらないですよね。界隈はたくさんありますが、何かしら序列があったりするイメージです。「古参」の偉さとでも言いますか。何かと息苦しい社会だからこそ、ラジオ特有の「緩やかな連帯感」が必要とされているという側面もあるように思いました。

冨山:ラジオは、ファンクラブやオンラインサロンとは違い、「ドアがちょっと開いている」というか、みんなが入って来ることができる余白があるのかもしれません。「それぞれの距離感で楽しめる緩やかな連帯感」が今のラジオの良さで、それが時代とマッチした部分もあったのだと思います。

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ラジオと広告の違いは「下心」と「数字文化」の有無?

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

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MarkeZine(マーケジン)
2025/07/15 08:30 https://markezine.jp/article/detail/49382

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