ようやく黒字化へ、Warby Parkerの戦略転換を読み解く
アイウェアD2C企業のWarby Parkerは2021年の上場以降、赤字決算が続いていたが、2025年第一四半期に初の黒字決算を報告した。報道では、店舗拡大が成長の主な要因とされているが、実は、黒字化の要はアイウェアの物品販売を糸口とした「医療保険」市場の利用にある。
アイウェアは「医療機器としての機能性」と「ファッションとしての嗜好性」という二面性を持つカテゴリだ。Warby Parkerは、同カテゴリにおいて、D2Cモデルを起点に「視力ケア」と「保険」をレバレッジとした戦略転換を図った。単なる製品販売型のD2Cブランドから脱却し、医療・保険・アイケアサービスを統合した「ビジョンケア・プロバイダー」へと自社を再定義し、進化を遂げている。
単なる事業の多角化(水平拡大)ではなく、LTV最大化に向けて垂直方向に顧客および市場を深掘りするWarby Parkerの戦略を読み解き、D2C事業の黒字化のポイントを考察していこう。
単なるD2C製品からの事業転換
Warby Parkerは、オンライン完結型のアイウェアD2C事業として創業。自宅にいながらメガネを選び、試着し、購入できる顧客体験を売りにしてきた。2020年頃の外出自粛から始まったD2Cトレンドの波にのって、ビジネスをスタートさせた形だ。
現在、Warby Parkerは北米で約300店舗を展開しており、将来的には最大900店舗までの拡大が可能と発表している。メディア報道では「スーパーのTargetとの提携を含む店舗数の拡大=売上増加」として、従来型のフランチャイズ的手法の延長線上で論じているが、これは表層的な解説だ。
米国のメガネ店では、視力検査を含む眼科サービスは医師免許を有する医師が提供しなければならない。ユーザーは事前予約の上で医療診察を受ける必要があり、保険を適用しない場合には診察料として約1万円を自己負担するのが一般的である。
Warby Parkerはこの制度を踏まえ、2024年末時点で276店舗中236店舗に対面で検眼サービスを提供できる医師を常駐させている。店舗=メガネの陳列販売の場所ではなく、契約医師がいる総合ビジョンセンターとして、投資をしてきたのだ。
日本のメガネ店のように、視力数値の計測だけを行うわけではない。医師が診るからには、視力検査だけでなく、眼底検査や眼圧検査といった人間ドッグに近い詳細な診察も受けられる。内臓疾患などの兆候が眼底などから発見される場合もあるため、「ビジョンセンター」と称しているわけだ。
Warby Parkerがこのビジネスに舵を取り始めたのは2023~2024年であり、視力ケア事業を医療保険と連携させ、保険加入者約3,400万人へ間口を広げる営業戦略シフトを行った。その地道な取り組みの成果が2025年に入ってようやく目に見える形(黒字)で表れ始めた。