TikTok発の遊びが「公式製品」に昇華
提案はそのままリサーチプロジェクトへと昇格。消費者テスト、試作フレーバーの検討、パッケージデザインなどが短期間で行われた。
最終的に誕生したのが、2025年5月に北米で限定発売された「Sprite + Tea」である。レモンティーやピーチティーなど紅茶ベースの炭酸飲料で、見た目も透明感とティーバッグ風の演出が特徴的だ。コアターゲットはもちろんZ世代。SNSでのシェアやリアクションを前提に設計された製品である。
Hisham Raus氏の投稿から約2年後に公式製品としてリリースされたこの事例は、異例のようでいて、綿密な観察と構造的なスピード対応に支えられた結果でもある。
興味深いのは、製品発表後にも再びTikTokで“公式が乗っかったあの遊び”として盛り上がり、今度はユーザーが『次のティー』を考え出す流れが自然に起きた点だ。Z世代にとって、この製品はブランドのレスポンスであると同時に、自分たちのアイデアが可視化された証でもある。
コカ・コーラはなぜ“気づけた”のか
この事例は、コカ・コーラがTikTokなどのソーシャルメディアを単なる販促チャネルではなく、アイデアの供給源として見ていたことを示している。同社は社内にソーシャルリスニングチームを持ち、UGCの定量・定性分析を継続的に行っていた。
ソーシャルリスニングは、SNSやレビューサイト、動画投稿などの場で、生活者が自然に語る言葉や行動を収集・分析し、そこからニーズや兆しを見出すマーケティング手法である。広告に対する反応を見るのではなく、誰もが自由に投稿する日常会話を“観察”することに主眼が置かれる。
特筆すべきは、そこに“感覚”を持ち込める若手やインターンの意見が評価対象になっていた点である。バズは数値で測れるが、「面白さ」「やってみたくなる感覚」は現場の肌感覚に委ねられる部分が大きい。
このような“耳の構造”は、どの企業でも形式的に整えられるものではない。現場とブランド、分析と直感をつなげる柔軟な組織文化があって初めて成立する。