人間のインタビュー力をAIでカバーできるのか?
MarkeZine:人間とAIとでは、チャットインタビューの対応力が違うのでは?という疑問があるのですが、その点はいかがでしょうか。
福田:AIチャットインタビューは、定性調査を専門とするリサーチャーの知見をプロンプトエンジニアリングに反映させています。一問一答ではなく回答者のペースに合わせて質問を進めることで、均質かつ網羅的な情報収集が可能であるほか、「なぜ」を繰り返しながら価値観を深掘りするので、質の高いデータが取得可能です。

また、調査目的に合わせて、AIモデレーターの人格や口調のトーンなどを設定することもできます。他にも、回答者の発言への寄り添い、共感、傾聴、うなずき、丁寧な聞き返し、本題からズレてしまった話題のさりげない修正などを通じて自然なインタビューを実現します。
さらに、インタビューの最後には会話のサマリーを自動生成して表示し、その内容を回答者に見ていただきます。その場で回答を確認・訂正できる仕組みがあるので、インタビュー内容の齟齬も起きにくくなっています。

橋場:これまでインタビューのモデレーションや分析の作業は「個人商店のようである」と言われていました。スキルや知見がどうしても属人的になってしまう、という意味です。
私はリサーチャーとしてAIチャットインタビューの開発に携わりましたが、自分のリサーチスキルをプロンプトに落とし込んでいく過程で、技術と知見の言語化・棚卸ができたと感じています。
たとえば、デプスインタビューには「プロービング」という手法があります。これは、モデレーターが回答者の発言から「もっと詳しく聞いてみたい」「新たな視点や示唆が含まれている」と感じた箇所を深掘りする手法のことで、潜在的なニーズを掘り下げるための手がかりや糸口となり得る重要なポイントです。AIチャットインタビューでは、このプロービングも言語化し、プロンプトに落とし込みました。

マーケティングリサーチでも人間にしかできない領域は残ると思いますが、AIを活用することでむしろ進化する領域もあります。ことインタビュー力に関しては、AI活用により、組織内でスキルが標準化されるというメリットが見込めるでしょう。
リサーチで「人間にしかできないこと」「AI活用で進化すること」
MarkeZine:これからマーケティングリサーチでは、「AIを活用して効率化できること」「人間にしかできないこと」「AIを活用することで、むしろ進化(深化)できること」をどのように区別して考えるとよいでしょうか?
橋場:AIは大量のデータ収集とインサイト抽出といった数をこなす調査が得意です。一方で、複雑な事象の背景理解、話し方や表情、人となりまで含めた深い分析、さらに点と点をつなぐインサイトの導出などは、まだ人間にしかできない領域であると考えています。
鈴木:AI活用でさらに進化することとして、たとえば「人には言いにくい本音を引き出すこと」が挙げられるのではないでしょうか。センシティブな話題(体の悩み、健康課題、コンプレックス商材など)でも、AIなら回答者に心理的負担をかけず、フラットに引き出すことが可能です。
橋場:また、世論を二分するようなテーマでは、インタビュー対象者が「モデレーターはどちら側の意見だろう」ということを気にしながらお話しされることがあります。その点、AIが相手だとそのようなことを気にせず、ご自身の意見を自由に述べることができます。テーマによっては、AIのほうが分厚いデータが取得できるのです。
加えて、AIチャットインタビューでは自身の考えを整理する時間を自由に取れるので、モデレーターを気にせず、自分のペースでしっかり考えて回答することができます。対人のインタビューより本音を引き出しやすいのは、こういった点も関係していると思います。
・AIを活用して効率化できる部分:大規模なインタビュー調査を実施する際の「時間・労力・コスト」、大量のデータの解析・分析
・人間にしかできないこと:多様な要素(表情、話し方、対象者の雰囲気など)を踏まえ、点と点を繋げていくインサイトの導出
・AIを活用することで、むしろ進化(深化)する部分:テーマや内容、モデレーターの意見、回答のペースなどを気にせず、より本音を引き出せる
【予告】埋もれていた生活者の本音を引き出すアプローチを紹介
伊藤:本日は「AIチャットインタビュー」をメインにAI活用をテーマにお伝えしてきましたが、楽天インサイトは、2025年9月開催の「MarkeZine Day 2025 Autumn」で「“育休パパ”の声が未来の商品をつくる ー AIが引き出す、生活者インサイト最前線」をテーマに講演する予定です。画像・テキストなど多様な定性データをAIで分析し、今まで埋もれていた生活者の本音を引き出すアプローチを紹介します。生活者インサイトの解像度を一段引き上げたい方にぜひ参加いただきたいです。

MarkeZine:AIだからこそ、他者を意識したり、自分の見え方を気にしたりしない「育休パパの本音」が明らかになるかもしれませんね。最後に今後の展望をお聞かせください。
伊藤:AIを活用したサービスは、従来の調査手法に変革をもたらすインパクトを持つものとして位置づけており、引き続き高い成果を出すべく目標を設定しています。
楽天グループの強力なテックチームと楽天インサイトが培ってきたリサーチ領域の専門性を組み合わせることで、リサーチ×AIで業界を牽引していきます。そして、お客様のマーケティングアクションの高度化・スピードアップに貢献していきます。