「1年で退職」理由はスピード感とキャリアパス
野崎:これまでの八木さんは、「会社の顔」として、ベンチャー企業でスピード感を持って幅広く活動されていました。一方、スターバックスのような大企業では分業制になるはずで、担当領域が狭くなったり、承認プロセスが鈍化するはずです。
日々、キャリア面談をしている中で、ベンチャーから大手に転身してうまくいかない人が口を揃えておっしゃる悩みでもあります。今までのスタイルから、やりづらさを感じませんでしたか?
八木:はい。スターバックスは各領域に1人しか担当者を配置しないので、一定の裁量を任せてもらえた点は大きなメリットでした。しかし、上層部やシアトル本社まで承認を得る必要があり、「意思決定の遅さ」にもどかしさを感じました。

野崎:べンチャー企業から大手企業に転職して初めてわかることですよね。意思決定にこれほど時間がかかるとは、驚かれたのではないでしょうか。
八木:そうですね。また、最初はポジティブに捉えていた1人で領域を担当することも、現実は厳しいものでした。
常に1人で対応を求められ、相談できる人もおらず、先輩はいても同じ業務の経験者は多くいませんでした。こうした状況から、私は「先行者やロールモデルがいた方が業務を進めやすい」という自身の特性に気づくこともできました。
野崎:これは事業会社でキャリア形成をするうえでの課題でもあります。支援会社では同じ業務をチームで進めたり、近しい業務を担当している仲間がいるのが一般的です。一方、事業会社では1人マーケターもいますし、全く同じ職域の同僚がいないケースも多いのです。
八木:そうなんです。「プロフェッショナルとして自律して進めてください」という状況だったため、進めることはできつつライバルのいない寂しさ・孤独感を感じることもありました。
野崎:プロフェッショナルとしての期待は嬉しい反面、重圧もあったでしょうね。スターバックスでは1年間勤務されましたが、転職を決意されたのはなぜでしょうか?
八木:一番の決め手は、キャリアパスです。私は30代前半で管理職への昇進を望んでいました。しかし、マネージャー以上は40代以降が中心で、30代での抜擢は非常に限られていました。そのため、自分のキャリア志向と昇進ペースにミスマッチを感じるようになりました。
野崎:支援会社から事業会社へ転職した方々の多くが、まさに同じ課題に直面するケースは多いものです。キャリア面談でも「決裁スピード」「裁量」「昇進スピード」などのフィット感は重視しています。八木さんの場合、早い段階でそのミスマッチに気づき修正できたのは素晴らしいですね。
八木:そのままこの会社にいても変わらないと思いましたし、5年間ログリーで働いてきた経歴があるので、1年で辞めたところでマイナスにはならないと考えたんですよね。1年のキャリアはマイナスに思われることもあるかと思いましたが、自身のステージ・キャリアパスを見据えると決断は早い方がいいとも考えました。
自分の特性を理解し、適切なフィールドを選ぶことが重要
野崎:その後、スピード感のあるベンチャー環境を求めて、現在のFLUXに転職されたのですね。
八木:そうです。加えて、FLUXにはアドテク事業があるため、マーケティング以外にログリーでの経験で何か力になれるかもしれないと思ったのも理由の一つです。
野崎:八木さんのお話を伺っていると、FLUXへの転職にも戦略性が現れています。ベンチャーという挑戦的な環境を選びながらも、既存の強みを活かせる場所を見極める。この攻めと堅実さのバランス感覚が、八木さんの大きな強みだと感じました。
八木:ありがとうございます。ベンチャーと大手の両方を経験してみて、幅広く活動できる現在の環境の方が、私の性格に合っていると実感しています。
野崎:数多くのキャリア設計支援を通じて感じるのは、ベンチャーや大手といった「企業規模」だけでなく、「自分の価値観・ライフステージとの相性」を見極めることです。八木さんのように、自分の特性を理解し、適切なフィールドを選ぶ姿勢は、広告・マーケティング・インターネットサービス業界でキャリアアップを目指す方々にとって参考になるでしょう。