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事業と人を成長させる「強み」起点のマーケティング思考

【新連載】元リクルートマーケティング責任者が語る「強み」で事業と人を伸ばす“考え型”


定義の“筋”を紐解く

 端的にまとめるならば、マーケティングとは「価値を届けて、利益を生み出すこと」だと思っています。ただ、これだけでは、行間が飛びすぎて伝わりません。だから私は、以下のように言葉を足しています。

 「人が創り出すマーケットのニーズに、限りなくリアルタイムに、価値を届ける為の適応をして、利益を生み出すこと」

 ここから先は、この定義の“筋”を順に紐解いていきます。

「マーケットのニーズ」──誰の、どのようなニーズなのか?

 マーケティングの対象は常に「人」です。犬の服であれ、最先端のSaaSであれ、それを買うのは人です。人が集まり、ある特定の行動や思考を持って形づくられるもの、それが「市場=マーケット」です。

 だから私は「人が創り出すマーケットのニーズ」と表現しています。人を見ずに市場を語ると、現状のマーケット構造は見えません。人単位でマーケットの構造を視て、数値にできることは徹底して数値で捉える。それがリクルートで叩き込まれてきた「算数の原則」です。

 たとえば、ネットサービスのプロダクトであれば、会員数、登録率、応募数、CPA、CVR……すべて数値化できます。しかし、数字だけでは見えない“前提や背景”もある。人の意思や行動の“なぜ”を言葉で補足する。これが「国語の役割」です。

 「データが大事」と当たり前のように言われていますが、数値とデータは実は意味が異なります。数値は「数字そのもの」ですが、データは「事実や事象を記録した情報」です。つまり情報だから解釈をすることが重要であり、国語で解釈して初めてデータが意味をもちます

 こうした「算数と国語」を使って紡ぐものを「筋と数値」と呼びます。ビジネスにおける論理は、この2つの組み合わせで成り立っている。そして、論理の背骨を通すこと。それを「筋を通す」と表現していました。

「限りなくリアルタイムに」──時間との勝負である

 マーケティングという言葉は、"market" + "ing"。つまり、「市場の動きに、現在進行形で対応し続ける」ことが宿命づけられています。

 人が生み出す市場は、常に変わり続けます。そのスピードは場所や業種によっても異なりますが、どれだけ正しい価値を持っていたとしても、「ちょうどいい時」に届けなければ、意味がないのです。それはギフトと同様で、誕生日にしろ記念日にしろ、その日、その時になければそのギフトの価値は大きく下がってしまうのです。

 これを私は「限りなくリアルタイムに」と例えています。マーケットが変化するスピードに合わせて、時には先手を打って、私たちが“価値を届ける適応”を終えられるか。

 準備に時間がかかるなら、その時間を見越して「先に読む」必要があります。

 現状の構造を捉え、未来への変化を読み、生まれてくるであろう課題を捉えてタイミングを合わせる──。このタイミングにこそ、マーケティングの実行力とセンスが問われます。

「適応する」ということ──現場の解像度を高める

 ここで言う“適応”とは、ただ施策を実行することではありません。「誰が」「何を」「どれだけ」変えるか、という戦略と組織全体の調整です。

 たとえば、既に価値があるのに伝わっていない場合は、マーケターが磨きやすい領域です。届け方を変えれば成果につながる。伝え方を工夫すれば解決できる。広告やLPの改善、メディア選定、SNS活用など、打ち手は多い。

 一方で、価値そのものがない場合──すなわち、まだ世にない価値を創る場合は、話が違います。商品開発から、オペレーション設計、場合によっては組織の在り方まで変える必要があります。

 このとき、「変える範囲」が広いほど、実行スピードは落ちていきます。だから変化の速い市場ではベンチャーが勝ちやすく、組織が大きくなるほどマーケットの変化に“間に合わない”のです。

 「価値を届けるための適応」をどの範囲で、どのスピードで実現できるか。それが戦略の“勝ち筋”になります。

最後に──マーケティングとは、問いを立て続ける営み

 「人が創り出すマーケットのニーズに、限りなくリアルタイムに、価値を届ける為の適応をして、利益を生み出すこと」

 この定義は、私にとってのマーケティングの“現在地”です。まだまだ未熟な定義かもしれません。けれど、実務で幾度となく“しくじり”を繰り返してきた私が、現場の手触りを持ってようやく辿り着いた言葉です。

 マーケティングとは、ただ売るための手段ではありません。数字と向き合い、言葉を丁寧に選びながら、適応と選択を繰り返し、「筋と数値」で考え抜いて利益を創ること。

 そして、最も大切なのは、「なぜそれをやるのか?」「それは本当に価値があるのか?」という問いを、立ち止まらずに繰り返し続けることだと思っています。

 次回「AI時代におけるマーケティングの変化」をテーマに解説します。この変化を踏まえることで、これからのマーケティング戦略や戦術の立て方がどう変わっていくのか、変わらないことは何かの理解が深まると思いますので、ぜひご覧ください。

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この記事の著者

金井 統(カナイ オサム)

NexGen Inc. CEO
新卒でNTTドコモに入社。端末のマーケティングを経験した後、iモードでビジネス展開をする会社へのコンサルティングに従事。その後、リクルートへ転職。マーケティング室のVP(ヴァイスプレジデント)として、横断の人材育成・知見流通とHR領域のマーケティング責任者を担当。HR領域におけるToC及びToB双方のプロダクト横断での事業・マーケティング戦略、ブランディングからdirectADやSEO等のネットマーケティング、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/11/04 12:47 https://markezine.jp/article/detail/49714

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