やり方ではなく、“考え型”を
この連載では、強みにフォーカスするマーケティング・マネジメントというテーマでお話ししたいと思います。
私が、リクルートおよび事業支援、実家の会社を通して学んできたマーケティングとそのマーケティングの考え方を活かしたマネジメントの考え方、いや、考え“型”をお伝えしたいと考えています。
それは、何も型をそのまま使ってもらうためではなく、その型を一度知ってから、自分なりに型破りをしてほしいからです。型破りは、何かの型がないとできないと私は思っています。
私自身も、今まで色々な本や上長、同僚、外部の先生(自分で色々な知見者に会って、勝手に先生だと思って聞ける関係性になっている方々)から色々教わることで、自分なりの“考え型”ができました。ですので、この連載を読んだ方々には、ぜひ自分なりのマーケティングの“型”を創って、色々な方々に伝えていってほしいと願っています。
今後の連載内容ですが、大きくはマーケティングとマネジメントに分けてお話ししていきたいと思います。まずは、「マーケティングの定義」についてお話しし、今後の前提となる定義の認識を揃えたいと思います。
「筋と数値」で戦略を紡ぐ、実践的なマーケティング
「人が創り出すマーケットのニーズに、限りなくリアルタイムに、価値を届ける為の適応をして、利益を生み出すこと」
これが、私がリクルートでマーケティングの責任者を務め、多くの事業と向き合い、数え切れないほどの失敗と試行錯誤を繰り返してきた末に、言葉にできた現時点での定義です。
「マーケティングって、結局なんなんですか?」
前職のリクルートでも、事業支援で関わった様々な企業においても、一緒に働く仲間たちから何度も投げかけられてきた問いです。教科書には「市場創造」や「利益を作ること」といった様々な説明、解釈が並んでいますが、どのような本を読んでも私自身は腑に落ちることはありませんでした。
また、多くのマーケターの方々の定義も聞いてきましたが、人によって解釈も語り口もまったく異なります。それは言葉が抽象的だからだけではありません。文脈の省略や、思考の過程を端折って語られてしまっているからだと思っています。
だから私は、マーケティングという言葉を、事業の売上や利益、それに紐づくKPIに向き合って実行してきた実務家の視点から、自分の言葉で定義する必要があると感じてきました。その結果、現在定義として使っている言葉が上述なのですが、このように定義をすることで自分がどのようにマーケティングというツールを事業に活用するべきか、その範囲も明確になる気がしています。
言語にこだわる理由
リクルートでは、戦略の精度を上げるために「筋と数値で語れ」と言われます。
- 「筋」= 現状 → 課題 → 対策へとつながる論理の流れ(=国語)
- 「数値」= それをファクトで裏付け、妥当性を証明する証拠(=算数)
余談ですが、リクルートにはこのような特徴的な言葉が他にも存在します。上述した「国語と算数」という表現もそうですが、「浪漫とそろばん」といった言葉もあります。これは、ビジネスとしての経済性よりも、まずは何のためにやるかというビジョンが大事である、という考え方を言葉にしたものです。こういった特徴的な言葉を創り、大事な考え「方」を考え「型」として定義されていくことが、リクルートのビジネスにおける強さの秘訣なのではないかと個人的には思っています。
たとえば「進化」と「進歩」、「信頼」と「信用」、「分かる」と「解かる」──。似た言葉でも、時間軸・前提・構造が異なるだけで、意味がまるで変わってしまいます。
同じように「マーケティング」も、誰かの定義を引用するだけでは、その背景にある思考の順序や判断基準が見えないことになると思っています。だからこそ、自分自身の定義を作ることが必要なのです。これが、本連載におけるマーケティングの出発点です。
